2010年04月21日

アメリカに急拡大する「ティーパーティー運動」 その(2)

ティーパーティーの主張
ティーパーティーの公式ホームページによると、ティーパーティーの基本理念・政治思想として、

• 財政責任(Fiscal Responsibility)
• 合憲的な小さな政府(Constitutionaly Limited Government)
• 市場主義経済(Free Market)

の3点が謳われています。そして運動の目的は、これらの思想を市民に広め、教育し、民意を動かすことで、これらの理念を政策に反映させていくこととしています。

ティーパーティー運動の中心勢力は、参加者の7割を占める共和党支持者と言われていますが、民主党支持者や無党派層、リベタリアンなどの人々も参加しています。その意味で、この運動は党派を超えて、自由主義(Libertatianism)や保守主義(Conservatism)の考え方が、「より少ない予算」と「小さな政府」という共通項によって混ざり合っているといってもよさそうです。

何れにしても、ティーパーティー運動は、本来は少しずつ違った目標を持つ保守派の人々や団体が、オバマ政権への批判を旗印に集まり連携し、一大勢力を形成した運動、とでも言ったらよいでしょうか。具体的には、景気刺激策への反対、金融機関の救済への抗議、赤字財政への抗議、医療制度改革法への反対などをこれまで訴えてきました。

ところで、ティーパーティーを形成する主だった組織には以下のようなものがあります。

ティーパーティー・パトリオット(愛国者)http://teapartypatriots.ning.com/)は、1000を超える支部と、13万人の会員を擁する全国組織です。2010年4月15日の「税の日」には全国で560に及ぶさまざまなイベントを展開しました。共和党の前院内総務(Majority Leader)ディック・アーミーが率いる保守派の非営利団体「フリーダム・ワークス」と連携し、早くも11月の中間選挙に照準を合わせ、民主党議員を落選させるための選挙キャンペーンを展開しています。

ティーーパーティー・エクスプレスhttp://www.teapartyexpress.org/ )は、オバマ政権の赤字財政や増税、巨大化する連邦政府に抗議しながら、全国30〜40都市を回るバスツアーを行っています。このツアーは保守系組織「Our Country Deserves Better」によって運営されていますが、この組織は、サクラメントの共和党系コンサルタント会社Russo, Marsh, and Associatesによって創設され、バックアップを受けているといわれています。

ティーパーティー・ネイションhttp://www.teapartynation.com/)は、自身のホームページに次のように書かれています。「建国の父によって書かれている『神によって個人の自由が与えられている』という考え方に賛同する人々の集まりです。私たちは、小さな政府、言論の自由、憲法修正第2条(市民の武器の所持の権利)、アメリカ軍、そして国家と国境の安全保障を信条としています」。2010年2月に開催された全国大会では、2008年大統領選挙の副大統領候補だったサラ・ペイリンがメインスピーカーでした。大会の参加費用は549ドルと高額で、ペイリンは10万ドルという報酬を受け取ったことで批判の対象となりましたが、その後、受け取った金は保守派の活動のために寄付すると発表しています。

過激派を巻き込むティーパーティー運動
しかし、ティーパーティー集会の参加者の中には、あからさまなオバマ敵視・侮辱をしている人々もいます。例えば、アフリカライオンがホワイトハウスにいる絵とか、白人の顔をしたオバマの顔が描かれたプラカードを手にする人々。トーマス・ジェファーソンの「自由の木は、時には愛国者と専制君主の血を注がれなければならない」という言葉が書かれたTシャツを着て、「時には、暴力も必要だ」と訴えている人々です。

さらに、ネオ・ナチと呼ばれる過激グループまでが加わり、銃規制に反対するため銃を掲げてのデモを起こそうとしています。白人至上主義団体として有名な「ストーム・フロント」も、ティーパーティーに参加しています。黒人、同性愛者、ユダヤ人などを排斥する運動を続けているこの団体は、14万人の会員を集め、ティーパーティー集会では、白人の共和党政治家や候補者を支持する姿勢を打ち出しています。

このような人種差別主義者や極右主義者、過激派の団体など、少数派の政治的に異端視されているグループが、ティーパーティー運動に多数紛れ込んでいるのが実情です。彼らは、ティーパーティー運動に便乗する形で、ネットやツイッターなどを通して議論を交わし、集会などにも公然と姿を現し、その活動の場を広げています。

非営利団体「サウザーン・ポバティー・ロー・センター」によると、いわゆる過激派グループ(Extremist Group)の数は、2008年の1248団体から、2010年の1753団体へと実に40%も増加しているといいます。さらに、過激派の運動は、より大きな愛国者運動(Patriot Movement)の動きとも連動しており、2009年には363の愛国者を名乗る新団体が設立されています。

愛国主義、過激派、極右主義の主張
愛国主義、過激派、極右主義などに傾倒している諸グループには、人種差別主義(Racism)、市民軍(Militia:市民の武装する権利を主張するグループ)、反ユダヤ主義(Anti-Semitism)、陰謀論(Conspiracy theory)、課税反対(Tax Protest)、など様々な主義・主張があります。

市民軍の考え方や、税金に反対するグループは、「我々は、神によりこの地を与えられた独立市民であり、誰にも(政府にも)市民に干渉する権利はなく、税の徴収をする権利もない。従って、連邦政府税は違憲であり、我々市民には独自に武装する自由がある」と主張します。

また、白人優位を主張する根拠にあるのは、「神はアメリカをこの地を白人に手渡した。白人以外の人々は憲法修正第14条によって市民権を与えられた人々であり、従って黒人やヒスパニック系の移民は我々と同列ではない」というものです。1980−90年代の人種差別主義運動もここから発しており、現在もヒスパニック系の移民を排除したり移民に対する権利を制限するべきだと主張しています。

主義主張は様々でも、こういったグループは、概して政府の権限の拡大を極度に嫌い、牽制する傾向があります。オバマ政権が、2010年1月、連邦政府と州政府の連携を強め国内における軍事機能を高めるために10州の州知事で成り立つ知事会議を立ち上げた時には、「オバマ政権はマーシャル法(軍が民事政権に取って代わること)を制定しようとしている」といった憶測が飛び交い、オバマ政権への攻撃を一段と強めました。

1990年代、クリントン政権時代にも反政府の旗を掲げた愛国者運動が巻き起こっていますが、今の状況が当時と異なるのは、政府のリーダーシップをとっているのが黒人大統領であるということです。愛国者たちにとって今回の運動は、「アメリカはもはや白人が支配する国ではなくなってしまった」という社会の変貌への抵抗、反発、嘆きのように見えます。そして、その愛国者運動は、「人種差別の側面」、「巨大化する政府の権限と財政赤字に対する抗議」、「アメリカ人から自由を奪う敵としての政府への抗議」など、複数の考え方と混沌と混ざり合い、ティーパーティーという一大勢力に吸収・統合されるようになったと考えられます。

極右的発言をする政治家たち
通常は、過激派や極右主義の人々の動向がメディアに取り上げられたり、注目されることはほとんどないといっていいでしょう。しかし、最近の傾向の特徴は、共和党議員や右よりの政治家たちの中に、過激派かと見紛うような発言が相次いでいるということです。

例えば、ミネソタ州選出の下院議員ミシェル・バックマンです。2009年4月、地元ミネソタのラジオ番組に出演し、「オバマは密かに若者向けの再教育プログラムを主催して、若者たちを再教育し政府の思想やプロパガンダを教え込み、働かせようとしている。このままでは、アメリカから自由が奪われ、政府がすべてをコントロールする社会主義国家となってしまう」といった発言をしました。

若者の再教育プログラムとは、「ケネディ・サーブ・アメリカ法(The Kennedy Serve America Act)」という超党派の政府主催のコミュニティー・サービス・プログラムのことです。オバマ政権発足後、採用枠を75,000人から250,000人に拡大する法案が上・下院を通過したこと受けてのコメントでした。バックマンの話を聴いて素直に真実だと信じこんでしまうラジオ視聴者たちも大勢いたことでしょう。その一方で、これは若者によるボランティア活動を推進するプラグラムなのに、彼女のコメントには誇張がある、事実が歪曲されている、非常識な見解だという抗議も殺到し、メディアを賑わせていました。他の政治家たちはこのようなコメントをあえて批判したがらないため、黙秘する形になり、かえって状況を助長しています。

コロラド州出身の元下院議員トム・タンクレドは、2010年2月4日のティーパーティー大会のスピーチで、「オバマは社会主義者だ。オバマが選挙に勝ったのは、無能な者たちが投票したからだ。必要なのは、識字テストだ」などという、暴言を放ちました。(http://www.cbsnews.com/8301-503544_162-6177125-503544.html)。黒人たちに選挙権を与えないために、識字テストを課した歴史の暗部を持ち出し、黒人大統領を皮肉り、暗に批判したのです。タンクレドは、ティーパーティー運動を、「左方向(社会主義方向)へと向かっているこの国を元に戻す逆変革の運動である」と位置づけています。

ティーパーティーを加熱させるメディア報道
こういった物議をかもす発言は、政治家だけでなくテレビメディアからも多発しています。オバマ政権への批判や陰謀論などを自身の番組で盛んに広めているのが、保守派メディアの代表格であるフォックスニュースの人気司会者で、挑発的な発言で知られるグレン・ベックです。世間を騒がせたのが、2009年3月に3回シリーズで放映されたFEMA疑惑です。FEMA(Federal Emergency Management Agency)とは、災害やテロなどが起きた際に緊急出動し救援などに当たる政府機関で、国土安全保障省の一部です。FEMA疑惑とは、オバマ政権に反対する人々を収容するために、FEMAに極秘に収容所を建設したのではないかというものです。

この疑惑の発端は、2009年2月に成立した、さまざまな公共事業への財政支出を決めた総額7870億ドルのいわゆる景気刺激対策法(The American Recovery and Reinvestment Act)の予算の使い道です。FEMAに割り当てられた予算の一部が、そのような収容所の建設に使われているのではないかと、それらしい証拠写真を見せながら解説しました。話の筋書きは、人気映画「X−ファイル」(1998年)のストーリーに酷似していて、「オバマ政権によってマーシャル法が宣言され、緊急部隊が出動し、大量の反政府派がFEMAの収容所に送られる」などというものでした。番組では、最終的に「その事実は確認されなかった」という結末になりましたが、番組を視た3百万人とも言われる視聴者に、疑惑を信じ込ませるような絶大な影響力を持っていました。政府に対する人々の懐疑心や不安を煽ったことは間違いありません。(http://glennbeck.blogs.foxnews.com/2009/04/06/debunking-fema-camp-myths/

次回へ続く・・・


posted by Oceanlove at 03:25| アメリカ政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月18日

アメリカに急拡大する「ティーパーティー運動」

医療改革法の対立から「ティーパーティー」へ

2010年3月、アメリカの民間の世論調査会社Harris Pollによる調査で、以下に示すような驚くべき数字が発表されました。http://news.yahoo.com/s/dailybeast/20100323/ts_dailybeast/7269_scarynewgoppoll
• オバマ大統領を社会主義者だと考えている人の割合・・・共和党支持者の67%(アメリカ人全体では40%)
• オバマ大統領はイスラム教徒だと考えている人の割合・・・共和党支持者57%(全体では32%)
• オバマ大統領はアメリカ生まれではなく、したがって大統領になる資格はないと信じている人の割合・・・共和党支持者45%(全体では25%)
• オバマ大統領はヒトラーがしたようなことをしていると考えている人の割合、共和党支持者38%(全体では20%)
• オバマ大統領は反キリスト者だと考えている人の割合・・・共和党支持者24%(全体では14%)

この調査は、医療制度改革法案の審議が大詰めを迎えた2010年2月頃に行われました。およそ一年近い論戦が繰り広げられた末、法案は、2009年12月に上院で、2010年3月に下院で修正案が可決され、3月23日にオバマ大統領が署名、法律化されたばかりです。これによって、現在約3000万人いるといわれる無保険者の人々が新たに保険に加入できることになりました。

この法案をめぐっては、共和党と民主党が両極に割れるのみならず、民主党内でも最後まで対立が続き、一般市民の間にも大きな論争を巻き起こしました。法案への賛成派・反対派の対決は、次第にオバマ政権の支持派と反対派へと発展し、世論を真っ二つに引き離していったのです。

共和党支持者を中心とする反対派の主な主張は、今後10年間で9380億ドルの予算をつぎ込むこの改革は、「アメリカの保険制度や医療経済の行方を政府がコントロールするのみならず、人の健康や命に関してまでも政府が関与することとなり、これは人々から自由を搾取する社会主義のやり方である」というものでした。オバマ大統領が社会主義者であるという考え方は、医療制度改革の論争に、その一端を発していると言っていいでしょう。この論争のあらましについては、2009年11月の記事をご参考ください。(http://ocean-love.seesaa.net/archives/200911-1.html

上記の世論調査の数字に見られるように、オバマ大統領に対する誤解や誹謗はメディアによって吹聴され、オバマ政権への批判や抗議の声はますます増大しています。11月に中間控えた今、反政府勢力は、共和党を主軸としながら他のさまざまなグループや団体を巻き込み、巨大な一大勢力となって、アメリカの社会を揺るがし始めています。その一大勢力を総称で「ティーパーティー」と呼びます。今回は、いまや、その名をテレビやラジオで聴かない日はないほど、勢力を増したアメリカのティーパーティーについて、解説していきます。そして、ティーパーティーの動きを通して、現在のアメリカ社会の動向を探ってみようと思います。

ティーパーティーとは

ティーパーティーは、オバマ政権による景気刺激策としての財政出動や金融機関の救済への抗議をきっかけとして、課税・増税に反対を唱える保守勢力が結集して2009年始めごろから始まった政治運動です。ティーパーティーという名は、アメリカ独立以前の1773年、植民地の移民たちが、参政権がないのに本国イギリス政府から課税されることに抗議して起こした歴史的ボストン・ティーパーティーに由来します。その運動は、後に独立戦争へと繋がっていったのですが、今回のティーパーティー運動も、時代を超えて現オバマ政権への抗議という形で、アメリカの歴史の再現を彷彿とさせています。

アメリカ政治において、増税への反対や赤字財政に対する抗議は目新しいことではありません。特に、リバタリアン(自由主義者)や保守層にとって、かつてのボストン・ティーパーティーは、課税・増税への反対運動の象徴でした。最近では、共和党のロン・ポール下院議員が、2008年の大統領選挙の前哨戦キャンペーンで、自身の財政緊縮政策をアピールするのに、「ティーパーティー」を持ち出したりしています。

ちなみに、現代版の「ティーパーティー」という言葉が定着する以前は、政府の財政政策批判の代名詞は、「ティー」ではなく「ポーク・バレル(豚の樽)」でした。「ポーク・バレル」は、南北戦争以前、樽に入った燻製の豚肉を黒人奴隷に配ったことに由来しますが、転じて、政治家が、選挙区で有利になるように、地域開発事業などに政府の補助金を出させる、利益誘導型の政治を指します。景気刺激策や金融機関の救済は、ポーク・バレル、つまり税金の無駄遣い、いわゆるばら撒き方の政策だという風に使われていました。

現代版ティーパーティーの誕生

今回のティーパーティー運動の発端は、7870億ドルに上る景気刺激対策法案(Stimulus Bill)への反発です。オバマ政権発足後間もない2009年1月、法案が下院に提出されるやいなや、共和党の政治家、保守派のメディアのコメンテーター、緊縮財政を支持する保守派運動家などが法案反対で意気投合していきます。この法案は、あまりにも支出が大きすぎ将来に大きな付けを残すとして、共和党議員は下院では全員反対、上院でも3名を除き全員反対でしたが、民主党の数の力で2月13日に成立しました。

これに呼応して、各地で新政権への批判の声が上がります。2009年2月10日、オバマ政権発足後初めて、フロリダ州のフォート・マイヤーズで開催された反対集会が、ティーパーティー運動の先駆けとも言われています。また、ニューヨークタイムズ紙によると、2月16日の大統領記念日の祝日にシアトルで開催された反対集会の主催者である保守派運動家ケリー・キャレンダーを、最初のティーパーティー運動の主催者だとしています。キャレンダーによると、保守派メディアや政治家、シンクタンクなどに働きかけた結果、最初の集会で集まったのは120人。その後、著名人のブログを通して宣伝するなどして運動は急速に盛り上がり、4月15日「税の日」の集会には1200人を集めるまでになりました。

一方、中西部シカゴでは、2月19日にCNBCテレビのビジネス番組でエディターのリック・サンテリが、政府による「焦げ付いた住宅ローンの再融資(借り替え)計画」を批判して「支払能力のない人々の借金を返すのにどうして我々の税金を使うのか」と激怒し、シカゴ・ティーパーティーに奮起を呼びかけました(http://www.cbsnews.com/stories/2009/03/04/opinion/main4843055.shtml)。そのテレビ番組の映像はYoutubeなどでネット上を駆け巡り、呼びかけに応えたシカゴ・ティーパーティーが抗議運動に乗り出します。2月20日にはFacebookが開設され、瞬くうちにテキサス、ニューヨーク、LAをはじめ、全国40都市に抗議の輪は広まっていったのです。そして、2009年2月27日、シカゴでティーパーティーとしての初めての全国一斉の抗議行動が起こされたのです。

・・・次回に続く

posted by Oceanlove at 22:39| アメリカ政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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