ティーパーティーの公式ホームページによると、ティーパーティーの基本理念・政治思想として、
• 財政責任(Fiscal Responsibility)
• 合憲的な小さな政府(Constitutionaly Limited Government)
• 市場主義経済(Free Market)
の3点が謳われています。そして運動の目的は、これらの思想を市民に広め、教育し、民意を動かすことで、これらの理念を政策に反映させていくこととしています。
ティーパーティー運動の中心勢力は、参加者の7割を占める共和党支持者と言われていますが、民主党支持者や無党派層、リベタリアンなどの人々も参加しています。その意味で、この運動は党派を超えて、自由主義(Libertatianism)や保守主義(Conservatism)の考え方が、「より少ない予算」と「小さな政府」という共通項によって混ざり合っているといってもよさそうです。
何れにしても、ティーパーティー運動は、本来は少しずつ違った目標を持つ保守派の人々や団体が、オバマ政権への批判を旗印に集まり連携し、一大勢力を形成した運動、とでも言ったらよいでしょうか。具体的には、景気刺激策への反対、金融機関の救済への抗議、赤字財政への抗議、医療制度改革法への反対などをこれまで訴えてきました。
ところで、ティーパーティーを形成する主だった組織には以下のようなものがあります。
• ティーパーティー・パトリオット(愛国者)(http://teapartypatriots.ning.com/)は、1000を超える支部と、13万人の会員を擁する全国組織です。2010年4月15日の「税の日」には全国で560に及ぶさまざまなイベントを展開しました。共和党の前院内総務(Majority Leader)ディック・アーミーが率いる保守派の非営利団体「フリーダム・ワークス」と連携し、早くも11月の中間選挙に照準を合わせ、民主党議員を落選させるための選挙キャンペーンを展開しています。
• ティーーパーティー・エクスプレス(http://www.teapartyexpress.org/ )は、オバマ政権の赤字財政や増税、巨大化する連邦政府に抗議しながら、全国30〜40都市を回るバスツアーを行っています。このツアーは保守系組織「Our Country Deserves Better」によって運営されていますが、この組織は、サクラメントの共和党系コンサルタント会社Russo, Marsh, and Associatesによって創設され、バックアップを受けているといわれています。
• ティーパーティー・ネイション(http://www.teapartynation.com/)は、自身のホームページに次のように書かれています。「建国の父によって書かれている『神によって個人の自由が与えられている』という考え方に賛同する人々の集まりです。私たちは、小さな政府、言論の自由、憲法修正第2条(市民の武器の所持の権利)、アメリカ軍、そして国家と国境の安全保障を信条としています」。2010年2月に開催された全国大会では、2008年大統領選挙の副大統領候補だったサラ・ペイリンがメインスピーカーでした。大会の参加費用は549ドルと高額で、ペイリンは10万ドルという報酬を受け取ったことで批判の対象となりましたが、その後、受け取った金は保守派の活動のために寄付すると発表しています。
過激派を巻き込むティーパーティー運動
しかし、ティーパーティー集会の参加者の中には、あからさまなオバマ敵視・侮辱をしている人々もいます。例えば、アフリカライオンがホワイトハウスにいる絵とか、白人の顔をしたオバマの顔が描かれたプラカードを手にする人々。トーマス・ジェファーソンの「自由の木は、時には愛国者と専制君主の血を注がれなければならない」という言葉が書かれたTシャツを着て、「時には、暴力も必要だ」と訴えている人々です。
さらに、ネオ・ナチと呼ばれる過激グループまでが加わり、銃規制に反対するため銃を掲げてのデモを起こそうとしています。白人至上主義団体として有名な「ストーム・フロント」も、ティーパーティーに参加しています。黒人、同性愛者、ユダヤ人などを排斥する運動を続けているこの団体は、14万人の会員を集め、ティーパーティー集会では、白人の共和党政治家や候補者を支持する姿勢を打ち出しています。
このような人種差別主義者や極右主義者、過激派の団体など、少数派の政治的に異端視されているグループが、ティーパーティー運動に多数紛れ込んでいるのが実情です。彼らは、ティーパーティー運動に便乗する形で、ネットやツイッターなどを通して議論を交わし、集会などにも公然と姿を現し、その活動の場を広げています。
非営利団体「サウザーン・ポバティー・ロー・センター」によると、いわゆる過激派グループ(Extremist Group)の数は、2008年の1248団体から、2010年の1753団体へと実に40%も増加しているといいます。さらに、過激派の運動は、より大きな愛国者運動(Patriot Movement)の動きとも連動しており、2009年には363の愛国者を名乗る新団体が設立されています。
愛国主義、過激派、極右主義の主張
愛国主義、過激派、極右主義などに傾倒している諸グループには、人種差別主義(Racism)、市民軍(Militia:市民の武装する権利を主張するグループ)、反ユダヤ主義(Anti-Semitism)、陰謀論(Conspiracy theory)、課税反対(Tax Protest)、など様々な主義・主張があります。
市民軍の考え方や、税金に反対するグループは、「我々は、神によりこの地を与えられた独立市民であり、誰にも(政府にも)市民に干渉する権利はなく、税の徴収をする権利もない。従って、連邦政府税は違憲であり、我々市民には独自に武装する自由がある」と主張します。
また、白人優位を主張する根拠にあるのは、「神はアメリカをこの地を白人に手渡した。白人以外の人々は憲法修正第14条によって市民権を与えられた人々であり、従って黒人やヒスパニック系の移民は我々と同列ではない」というものです。1980−90年代の人種差別主義運動もここから発しており、現在もヒスパニック系の移民を排除したり移民に対する権利を制限するべきだと主張しています。
主義主張は様々でも、こういったグループは、概して政府の権限の拡大を極度に嫌い、牽制する傾向があります。オバマ政権が、2010年1月、連邦政府と州政府の連携を強め国内における軍事機能を高めるために10州の州知事で成り立つ知事会議を立ち上げた時には、「オバマ政権はマーシャル法(軍が民事政権に取って代わること)を制定しようとしている」といった憶測が飛び交い、オバマ政権への攻撃を一段と強めました。
1990年代、クリントン政権時代にも反政府の旗を掲げた愛国者運動が巻き起こっていますが、今の状況が当時と異なるのは、政府のリーダーシップをとっているのが黒人大統領であるということです。愛国者たちにとって今回の運動は、「アメリカはもはや白人が支配する国ではなくなってしまった」という社会の変貌への抵抗、反発、嘆きのように見えます。そして、その愛国者運動は、「人種差別の側面」、「巨大化する政府の権限と財政赤字に対する抗議」、「アメリカ人から自由を奪う敵としての政府への抗議」など、複数の考え方と混沌と混ざり合い、ティーパーティーという一大勢力に吸収・統合されるようになったと考えられます。
極右的発言をする政治家たち
通常は、過激派や極右主義の人々の動向がメディアに取り上げられたり、注目されることはほとんどないといっていいでしょう。しかし、最近の傾向の特徴は、共和党議員や右よりの政治家たちの中に、過激派かと見紛うような発言が相次いでいるということです。
例えば、ミネソタ州選出の下院議員ミシェル・バックマンです。2009年4月、地元ミネソタのラジオ番組に出演し、「オバマは密かに若者向けの再教育プログラムを主催して、若者たちを再教育し政府の思想やプロパガンダを教え込み、働かせようとしている。このままでは、アメリカから自由が奪われ、政府がすべてをコントロールする社会主義国家となってしまう」といった発言をしました。
若者の再教育プログラムとは、「ケネディ・サーブ・アメリカ法(The Kennedy Serve America Act)」という超党派の政府主催のコミュニティー・サービス・プログラムのことです。オバマ政権発足後、採用枠を75,000人から250,000人に拡大する法案が上・下院を通過したこと受けてのコメントでした。バックマンの話を聴いて素直に真実だと信じこんでしまうラジオ視聴者たちも大勢いたことでしょう。その一方で、これは若者によるボランティア活動を推進するプラグラムなのに、彼女のコメントには誇張がある、事実が歪曲されている、非常識な見解だという抗議も殺到し、メディアを賑わせていました。他の政治家たちはこのようなコメントをあえて批判したがらないため、黙秘する形になり、かえって状況を助長しています。
コロラド州出身の元下院議員トム・タンクレドは、2010年2月4日のティーパーティー大会のスピーチで、「オバマは社会主義者だ。オバマが選挙に勝ったのは、無能な者たちが投票したからだ。必要なのは、識字テストだ」などという、暴言を放ちました。(http://www.cbsnews.com/8301-503544_162-6177125-503544.html)。黒人たちに選挙権を与えないために、識字テストを課した歴史の暗部を持ち出し、黒人大統領を皮肉り、暗に批判したのです。タンクレドは、ティーパーティー運動を、「左方向(社会主義方向)へと向かっているこの国を元に戻す逆変革の運動である」と位置づけています。
ティーパーティーを加熱させるメディア報道
こういった物議をかもす発言は、政治家だけでなくテレビメディアからも多発しています。オバマ政権への批判や陰謀論などを自身の番組で盛んに広めているのが、保守派メディアの代表格であるフォックスニュースの人気司会者で、挑発的な発言で知られるグレン・ベックです。世間を騒がせたのが、2009年3月に3回シリーズで放映されたFEMA疑惑です。FEMA(Federal Emergency Management Agency)とは、災害やテロなどが起きた際に緊急出動し救援などに当たる政府機関で、国土安全保障省の一部です。FEMA疑惑とは、オバマ政権に反対する人々を収容するために、FEMAに極秘に収容所を建設したのではないかというものです。
この疑惑の発端は、2009年2月に成立した、さまざまな公共事業への財政支出を決めた総額7870億ドルのいわゆる景気刺激対策法(The American Recovery and Reinvestment Act)の予算の使い道です。FEMAに割り当てられた予算の一部が、そのような収容所の建設に使われているのではないかと、それらしい証拠写真を見せながら解説しました。話の筋書きは、人気映画「X−ファイル」(1998年)のストーリーに酷似していて、「オバマ政権によってマーシャル法が宣言され、緊急部隊が出動し、大量の反政府派がFEMAの収容所に送られる」などというものでした。番組では、最終的に「その事実は確認されなかった」という結末になりましたが、番組を視た3百万人とも言われる視聴者に、疑惑を信じ込ませるような絶大な影響力を持っていました。政府に対する人々の懐疑心や不安を煽ったことは間違いありません。(http://glennbeck.blogs.foxnews.com/2009/04/06/debunking-fema-camp-myths/)
次回へ続く・・・