2010年10月17日

尖閣諸島と日本の安全保障 その(2)

この記事は、前回の「尖閣諸島と日本の安全保障」の続編です。

🎨 事件はアメリカが起こした??
前回の記事で、「尖閣諸島の問題は単なる日中間の領土争いではなく、アジア・太平洋地域の覇権を巡る、中国とアメリカの争いと見るべき」と述べました。近年、中国海軍が東シナ海、南シナ海へと展開し、海洋権益のめぐるアメリカと中国の対立が激化しつつあります。経済・軍事・政治全てで世界の大国に躍進する中国と、世界の覇権国から衰退に向かっているアメリカ。その力が拮抗する時期は近づいています。将来もしも、中国が台湾や尖閣諸島付近を制圧するようなことになれば、それはアメリカが東アジア・太平洋地域における覇権を失う時です。アメリカにとって、「尖閣諸島が日本のものとなるか中国のものとなるか」は、突き詰めれば「中国との闘争において勝つか負けるか」を意味すること、国家の存亡に関わる一大事だと言えます。

中国漁船と海保の巡視船の衝突事件(事故ではなく、事件)は、「起こされたもの」と考えるべきで、重要なのは「どちらがどのような意図をもって起こしたか」だと書きました。そして、中国が起こしたのだとすれば、それは日米同盟の強度を計る為だったのではないかと分析しました。本稿では、もしアメリカが起こしたのだとすればどんな意図があったのか、その可能性を分析していきたいと思います。

ところで、アメリカと同盟関係を結ぶ日本と韓国は、米中闘争のまさに最前線に位置しますが、現在、日米および米韓の間の軍事・外交分野で大きな懸案となっていることがいくつかあります。沖縄普天間基地問題、米海兵隊のグアムへの移転、そして2012年に予定されていた在韓米軍の指揮権(朝鮮有事の際の戦時作戦統制権)の韓国軍への委譲です。これらの計画は、米軍基地の縮小統合や軍事費の削減のために不可欠なものであると同時に、核やテロといった21世紀型の脅威に対するアメリカの軍事戦略の一環でもあります。しかし、同時に、韓国軍への指揮権の委譲、そして、在日米軍のグアム移転は、東アジアにおけるアメリカのプレゼンスを著しく削ぎ、代わりに中国にその勢力拡大を許す形とも受け取ることができます。ですから、これらの計画の遂行に当たっては、この地域へのアメリカの影響力を損なうことないように、その「タイミング」や「米中の力のバランスを見極めていく」ことが、アメリカにとって極めて重要です。実は、今回の中国漁船と海保巡視船の衝突事件とその後の日本の対応は、そのアメリカが「タイミングを見極める」もしくは「米中の力のバランスを見極める」ための行動と連結していた可能性があります。どういうことか、これから説明していきます。

🎨 アメリカの駒にされている日本
これまで、日中は互いが所有を主張しあう尖閣諸島の領土問題を、あえて解決せず、棚上げしてきました。その一方で、両国共通の利益となるガス田の共同開発などを推し進めてきました。過去に、中国人の活動家が島に上陸した時も、逮捕や拘束などで事を荒立てることなく、強制送還するというやり方をとってきました。東京新聞論説主幹の清水美和氏は、領土問題であえて白黒はっきりさせないことは、「尖閣諸島を実効支配する日本にとっては有利な取り決めとも言えた。棚上げされている限り、日本の実効支配が続くことを意味するからだ」と述べています。http://www.videonews.com/on-demand/491500/001567.php

確かに、アメリカべったりで中国との関係を冷え込ませていた小泉元首相でさえ、わざわざ中国の反感を買うようなことはしなかったのです。しかし、今回日本は、これまでの方針を180度変え、船長を拘束するという強硬手段にうって出ました。前述の清水氏は、日本は「今回、これまでの棚上げを返上し、船長を刑事訴追する意思を明確に示した。これに危機感を覚えた中国は、これを日本の政策転換と受け止め、必ずしも事の重大さを理解していない日本側にとっては過敏とも思える報復に打って出てきた。」と述べています。しかし、なぜ日本は、方針を変える必要があったのでしょうか。「船長を刑事訴追する意思を明確にした」のは、日本政府の意思だったのでしょうか?民主党には親中派も多く、アジア諸国との信頼関係の構築を目指してきたはずです。日本が、今回のタイミングで自発的に中国を刺激する必要があったとはなかなか考えにくいことと、尖閣諸島の領有権問題が米中闘争の只中にあるアメリカにとって決定的に重要であることを考え合わせると、アメリカが船長の拘束にGOサインを出した−つまり、日本を駒に使って「日本に中国を刺激する行動を起こさせた」のではないかと推察することができます。

尖閣諸島沖衝突事件は、民主党の党首選に向けて菅さんの再選のためのてこ入れを行っていたアメリカにとって、絶妙なタイミングで起きました。対米追従外交からの脱却を目指した小沢さんが選ばれてからでは、日本を駒として使いにくくなります。事件を機に、日本に中国をつつかせて、中国がどれくらい反応するかを探ったのではないでしょうか。アメリカも中国と戦闘行為などをするつもりはないでしょうが、中国がどれほどの実力と自信を示すのかを試すのには絶好の機会でした。

そうこうするうちに、党首選挙の結果はアメリカの狙い通り菅さんが再選され、菅改造内閣の閣僚メンバーはアメリカがより影響力を行使できる人事配置となりました。特に、新外相となった前原大臣はアメリカとの太いパイプをもち、元来、日米同盟強化が持論の政治家です。民主党の代表を務めていた2005年当時から、前原さんは、東シナ海のガス田をめぐって日中が軍事衝突する可能性を指摘するなど、領土問題では強硬姿勢を貫いてきました。小沢さんを排除した後、親米派の前原さんを外相ポストに据えることは、アメリカの思惑通りだったと見られます。外相となった前原さんがあれほど自身ありげに「粛々と・・・」と言い放ったのは、アメリカの後ろ盾があってこそなのです。

🎨 アメリカが戦わずして得た戦利品
アメリカの駒となって動かされ、船長を拘束したり、困って釈放したり、行き当たりばったりなことをしたために、日中関係は悪化。菅政権は日本国内では批判の矢面にたたされ、国際的には日本の弱腰外交が天下に晒されるなど、日本にとっていいことは何一つありません。では、駒を遠隔操作しただけのアメリカが手にした利益は、何だったのでしょうか。

まずは、日本が対米追随主義に舞い戻ったことです。今回のことで、日本国民の間に中国への反感や敵対意識、脅威論が俄かに高まりました。これは、アメリカのお家芸の“Scare Tactic(脅し戦略)”と呼ばれる常套手段で、軍事増強の必要性などを正当化するために人々の脅威を煽るやり方です。「東アジアは決して安定していませんよ、中国は脅威ですよ」という認識を日本人の中に刷り込ませ、だから、「日米同盟をもっと重視すべき」という方向に世論を先導するのです。マスコミによる反中国ムード形成も手伝って、普天間基地のごたごたの中で浮上した在日米軍基地不要論は沈静化していき、逆に周辺有事に備えた在日アメリカ軍の存在意義を再認識させる結果となっています。菅政権は、日米同盟の再強化を誓い、鳩山政権時代に「対等な日米関係」を目指したがためにギクシャクした日米関係は、どうやら元の鞘に戻りつつあるようです。

そして、アメリカが得るであろう最大の利益は、おそらく沖縄海兵隊グアム移転費になるでしょう。グアム移転に伴う経費は、06年の日米合意で総額102億7千万ドル(約9千億円)と明記されています。 このうち日本側は融資32億9千万ドルと財政支出28億ドルの計60億9千万ドル、米側は約41億8千万ドルをそれぞれ分担することになっています。それが、今年7月、ゲーツ米国防長官は、グアム移転協定の変更と共に、日本側に費用負担の増額を求めてきました。それと前後して、7月15日には米上院歳出委員会が、グアム移転費の政府原案の約70%(3億2千万ドル)を削減した予算法案を可決しています。北沢俊美防衛相は、日本政府として協議に応じる用意があるとする書簡を、すでにゲーツ米国防長官に送っています(7月29日 共同通信)。岡田元外相は「協定の見直しが必要かどうか、それは中身次第だ」と述べ、協定変更の可能性を否定していません(7月7日 琉球新報)。

続く8月下旬、アメリカ政府は、日本側の負担のうち、グアムのインフラ整備のために融資する7億4千万ドル(627億円)の大部分について、「返済不能」と日本側に伝えてきました。それに対し、日本は当面融資を見送るとしつつも、「移転事業は既に当初計画の2014年から3年以上遅れる見通しで、移転完了のさらなる先送りは同盟関係の弱体化につながる恐れがある。このため日本政府は、資金をすべて負担することによる決着の選択肢も捨てていない」と報道されています(8月27日 共同通信)。つまり、7億4千万ドルを貸すのではなく、差し上げてもいい・・・と仄めかしているというのです。アメリカが戦わずして得た戦利品。それは、今後数年間にわたって履行されるであろう沖縄海兵隊グアム移転のための莫大な資金源と考えるのが妥当でしょう。もし、尖閣沖事件がアメリカによって「起こされた」のだとしたら、アメリカの目的は、日本を再び手中に収めると共に、この資金源を確保することであり、アメリカはその目的を見事達成したと言えるでしょう。

🎨 日本同様、揺さぶられている韓国
アメリカが「タイミングを見極める」もしくは「米中の力のバランスを見極める」ためにやったのでは・・・と推定されるような事件は、日本でだけでなく、お隣の韓国でも起きています。今年3月、韓国哨戒艦「天安」が沈没した事件(事故ではなく事件)を思い出してください。韓国の李明博大統領は2010年5月20日、北朝鮮を名指しで犯人と発表し、アメリカ、日本などの先進諸国はすぐさま韓国への支持を表明しました。

韓国、アメリカ、イギリス、スウェーデンを含む合同調査団の報告では、天安艦は北朝鮮の攻撃により魚雷が爆発して沈没したとされ、魚雷の残骸がテレビで映し出されていました。しかし、この調査報告については、韓国国内やアメリカの一部のメディアで、不可解な点が多い、証明が科学的でないなど、信憑性を問う声が上がっています( “Doubts surface on North Korea’s role in ship sinking” 7月23日 ロサンゼルス・タイムス)。

例えば、米国ジョーンズホプキンス大のソ・ジェジョン物理学教授は、「合調団の発表の通りなら、それが正しければ天安艦は粉々になるはずだ」「250kgの魚雷が6m程度の距離で爆発すれば、天安艦はほとんど崩壊する」とし 「合調団が公開した写真には切断面がとてもきれいで、衝撃波でできるような 切断面とは全く違う」と主張しています。(2010年5月 「天安艦は座礁か衝突で沈没」より

なぜ天安が沈んだか、事実の真相は知りようがありませんし、この本稿の目的はそれを探ることでもありません。本稿の目的は、「天安艦事件」に関係国(韓国、北朝鮮、アメリカ、日本など)がどんな意図をもって関わり、結果、東アジアの安全保障にとってどのような意味があったか、ということを分析することです。

🎨 アメリカに逆らえなかった李明博政権
もし、天安の沈没が北朝鮮の攻撃によるものでなかったとすると、なぜ、李明博政権は、北朝鮮に濡れ衣を着せるような強攻策をとったのでしょうか。

韓国は、米韓相互防衛条約により米軍基地が置かれ、アメリカの同盟国として米軍事戦略の一端を担い、対米追従外交を採用している点で、日本の同様の立場にあります。今回のような朝鮮半島有事に関わる重大且つセンシティブな問題について、韓国の独断で決めることなどあり得るでしょうか?ましてや、もし真相と違うのであれば、沈没の犯人を北朝鮮に押し付けるなどという過激なことをやるとは常識的には考えられません。にもかかわらず、沈没を北朝鮮の犯行と断定したのは、「アメリカに逆らえなかった」からだと推察することができます。つまり、アメリカが韓国を駒に使って、北朝鮮を挑発させたのではないかということです。

では、この推察が正しいと仮定すると、アメリカはなぜ、北朝鮮を犯人に仕立て上げたかったのでしょうか。背景にあるのは、2012年に予定されていた在韓米軍から韓国軍への指揮権の移譲です。拡大する中国の軍事力とアジア・太平洋地域への影響力を考えると、アメリカが韓国における軍事指揮権を手放すのは時期尚早である、あるいは手放したくないという判断をしたとしてもおかしくありません。国家同士の約束事をアメリカの勝手な都合で破棄するわけにもいかず、どうしても約束を延期するための大義名分が必要だったのです。そのために作られたのが「北朝鮮犯人説」で、やはり、お決まりのScare Tactic (脅し戦略)です。つまり、小競り合いを起こし、南北の対立を煽り、朝鮮半島の不安定化と韓国民の不安を煽れば、米韓の継続的な軍事協力の必要性は正当化されます。

🎨 期待はずれに終わった安保理決議
韓国政府は、5月の合同調査で北朝鮮を犯人と断定した後、6月の国連安全保障理事会で北朝鮮への制裁決議を採択することをもくろんでいました。しかし、ことは韓国政府の思惑通りには進まず、採択された議長声明では、「哨戒艦沈没につながった攻撃を非難する」としたものの、攻撃の主体を北朝鮮と明示する表現は避けられました。声明では、北朝鮮を犯人とした合同調査の報告書に言及し、「安保理として深い懸念を表明する」に留め、「対話による解決で、朝鮮半島と東アジア一帯の平和と安全を確保することが重要だ」と述べています。安保理で北朝鮮の名指しが避けられたのは、「名指しの非難決議や非難声明で北朝鮮を追いつめると暴発を招く」という中国と、慎重に態度を選びたい他の理事国が多かったからです。声明文には、北朝鮮の名指しを避けるのみならず、「わが国は事故と関係がない」とする北朝鮮の主張もあえて併記されています(7月9日 「安保理議長声明原文」 U.N. Security Council statement on Korea ship sinking

当初、李明博政権が念頭においていた「制裁決議」ではなく、より影響力の弱い「議長声明」へと格下げされ、安保理で「北の責任」を決定的なものにしようとした韓国(とアメリカ)の狙いは、華々しいとは言えない結果に終わりました。それでも、議長声明をうけて、クリントン米国務長官は、「北朝鮮の無責任で挑発的な行動は、平和と安全に対する脅威であり、容認できないとの明確なメッセージだ」と述べ、北朝鮮の申善虎国連大使も「事件がわが国と関係がないことがはっきりした。わが国の外交の偉大な勝利だ」と、どちらも勝ち誇ったような発言です。おまけ的存在の日本は、日本の高須幸雄大使が「結果は明白。韓国側は説得力があった。北朝鮮は、何も説明できなかった」と何の説得力も無いコメントをしています(6月15日 読売新聞)。

🎨 株を上げる中国、下げる韓国と日本
一方、この天安艦事件の一連の出来事をめぐって、「思惑通りになった」と見ている国が中国です。中国は「北朝鮮は事件への関与を認めておらず、金正日総書記も今年5月に胡錦濤国家主席と会談した際、直接関与を否定した」とし、合同調査結果についても「検討中」といい続けて判断を先送りしました。そして、「直接の非難は北朝鮮の暴発につながりかねない。今後は経済支援を拡大して北朝鮮の体制を支えつつ、中断している6か国協議の再開も目指す構えだ」と述べ、議長声明の中で北朝鮮を名指しで非難することを断念させています。制裁決議とならなかったことで、中国はこれまで通りに北朝鮮への経済支援を進めていくことができるばかりでなく、国際政治における自らの発言力をいっそう強めています。米韓の思惑は、事件の真相を知っているであろう中国にすっかり見透かされた形になり、この事件で、中国が、アメリカと韓国に対して優位な立場に立ったことは間違いありません。

日本のニュースではほとんど伝えられていませんが、実は韓国国内では、当初から多くの人々が季明博政権が発表した北朝鮮犯人説を懐疑視していました。5月に発表された政府の合同調査団による報告は捏造されたものではないか、という市民らの疑念から、6月16日、市民団体が中心となり、「天安艦事件真実究明と韓半島平和の為の共同行動」が発足しました。その「共同行動」には43のNGO団体や市民・社会団体が参加し、情報と資料の収集、専門家らとのネットワークの形成、野党との協調など、独自の真実究明活動や、韓国国会での国政調査要求などの活動を展開しています。そして国連安保理議長および理事国に対しても、「天安艦調査結果発表によって解明されていない8つの疑問点」と「天安艦沈没調査過程の6つの問題点」とした文書を送るなど、真相究明に向けた活動を活発に行っています。(「天安艦事件 李明博政権国連安保理でも進退窮まる」より)。

アメリカの駒となって動かされた挙句、南北関係は冷え込み、韓国国内では北朝鮮犯人説の疑惑で糾弾され、合同調査報告後の地方選挙では与党ハンナラ党は敗北に終わり、アメリカにはいいとこ取りをされ、これまた何一ついいことの無い季明博政権、日本と韓国は、まるで同じ穴のムジナです。

🎨 恐るべしアメリカの諜報活動
一方のアメリカは、当初の大目的である、在韓米軍の指揮権の韓国軍への移譲の延期が達成されたので、涼しい顔です。6月26日、トロントで行われた米韓会談で、オバマ大統領とイ・ミョンバク大統領は、2012年4月に予定されていた指揮権の韓国軍への移譲を2015年末に延期することで合意しました。産経新聞によると、「北朝鮮による韓国哨戒間撃沈事件や核実験を受け、米軍の主導の防衛体制の維持が必要として、韓国が要請していた」「李大統領は米国の要請受け入れに謝意を示し、北朝鮮の侵略行為を阻止するため、全力を尽くすと述べた」との結末に至っています(6月27日 産経新聞)。

朝鮮半島における権力を弱めたくなかったアメリカ。これで韓国に居座るための大義名分ができ、しかも韓国側からの延長の要請を受け入れるという実にスマートな形で目的を達成したのです。Scare Tactics を少しくらい中国に見透かされたとしたって、全く痛くも痒くもありません。恐るべし、アメリカの諜報活動。

話を始めに戻しますが、尖閣諸島沖衝突事件(と中国人船長を拘束した日本の動き)、そして、韓国の哨戒艦天安の沈没事件(と北朝鮮を犯人と断定した韓国の動き)は、ともに、アメリカが「起こした」という推察を検証してきました。日本と韓国を駒に使ったアメリカの目的は、アジア・太平洋地域での覇権を維持するための足固め−日米同盟、米韓軍事同盟の強化−であったというのが本稿の分析結果です。ややもすると、「対等な日米関係」「脱対米追随外交」などと言い出す日本や韓国を、Scare Tacticsで手中に収めなおし、中国をけん制し、ついでにお金まで貢がせるする、一石二鳥以上の戦略でした。日本と韓国は、今回自分たちが駒として使われたのだということをまず認識すべきです。そして、駒は、利用価値があるうちは使われ、やがて使い捨てられるだろう、という危機感を持ち、これから国家としてどのような道を歩むべきか考えなければなりません。


posted by Oceanlove at 00:37| 日本の政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月10日

尖閣諸島と日本の安全保障


9月8日、尖閣諸島付近の海域で、中国漁船と日本の海上保安庁の巡視船が衝突した事件は、中国人船長が沖縄検察庁に拘束され、その後処分保留のまま釈放という経過をたどりました。菅政権の不能さと日本の安全保障について憂うことを、整理してまとめてみました。

🎨 事件のいきさつ
まず、大雑把ないきさつですが、日本政府は、尖閣諸島には領有権問題は存在しないという立場で、日本の領海内で起きた事件について、日本の法律に基づいて粛々と対応するという発言を繰り返してきました。前原外務大臣は、「尖閣諸島は日本の領土。主権をしっかり守っていく」として、衝突の様子を撮影した海上保安庁のビデオ内容を根拠に「中国漁船がかじをきって体当たりしてきた。公務執行妨害での逮捕は当然だ」と語るなど、毅然とした態度を見せていました。

しかし、中国人船長を逮捕という日本の行動は、中国の猛反発を引き起こしました。船長を釈放せよとの要求に留まらず、閣僚級の接触禁止、政府の国際会議参加を取り止め、文化交流の中止など、事は急激に二国間問題に進展しました。温家宝首相は「不法拘束中の中国人船長を即時・無条件で釈放することを日本側に求める」「釈放しなければ、中国はさらなる対抗措置を取る用意がある。その結果についてすべての責任は日本側が負わなければならない」とも発言し、レアアースの日本への輸出停止やフジタの社員3人の拘束など、複数の報復措置を取るにまで至りました。

そして、9月23日、両国間の対立が激しさを増す中、那覇地検は逮捕した船長を「日中関係への配慮」を理由に、処分保留のまま釈放しました。これに対し、与野党内から「日本は圧力に簡単に屈することを対外的に示してしまった」「拘留された日本人の身柄の安全や経済へのダメージを避けるためには仕方ない」「釈放は司法の独立した判断だとは誰も思わない」・・・などと喧々諤々の議論が飛び交いました。一般世論も「中国とはなんという横暴な国だ」「ごねた者勝ちという感じで悔しい」「日中関係を悪化させたくないので釈放も仕方ない」などと、一般市民の中国への反感も急激に高まっています。

小川敏夫法務副大臣は、「刑事訴訟法248条により、検察官は様々な状況を勘案して(処分を)決定する。社会に起きている事象もすべて判断したうえで、検察も判断する」「検察の捜査は政治が主導するものではない。捜査は独立している」と、検察への政治介入を否定すると同時に、釈放の判断には問題がないとしました。(9月28日 読売)。

しかし、地検の釈放判断に、政治介入が全くなかったというのなら、釈放の理由として「日中関係への配慮」という文句を使ったのは非常に紛らわしく、政治家の判断が影響したと誤解を受けても仕方ありません。しかし、小川法務大臣の言うように、「検察も社会状況を勘案して判断する」というのよしとするならば、日本の法を犯す者がいても、状況次第で逮捕されたりされなかったり、起訴されたりされなかったりすることがあるということを公言しているわけで、法治国家の呈をなしていません。

🎨 尖閣諸島に領土問題は存在する
尖閣諸島について、日本政府は「日本固有の領土だ」として、領土問題は存在しないという立場に立っています。しかし、「わが国固有」とはどういうことでしょうか。いったい歴史のどの時点での認識をもってわが国の領土だと主張するのでしょうか。マスコミなどでは、その根拠として挙げられるだけのものを挙げて正当化しようとし、領土問題の検証をする姿勢は見られません。根拠として一番重要視されているのが、沖縄がアメリカ占領下にあったときは沖縄の一部として認められていたのだから、そのまま日本に返還されたので当然日本の領土だという、アメリカを後ろ盾にした根拠です。

もともとは、尖閣諸島というのは、中国名を釣魚諸島といい、古くは明の時代から中国領だったものを、明治時代の天皇制日本政府が台湾侵略の足がかりとして狙ったものです。日本の領有が記録されるのは、日清戦争の勝利後、日本が沖縄県所轄に組み入れたときです。ただし、これは講和条約に含まれていたわけではなく、日本が勝手に閣議決定したものでした。その後、日中戦争時に日本が台湾の一部として占領しました。ですから、1945年に日本の敗戦と共に台湾に返還されるべきものだったはずが、アメリカが沖縄県の一部として占領することになったのです(その時点では中国側からは公式には抗議が出ていません)。しかし、1972年の沖縄返還時、尖閣諸島も日本の領土として返還されることを知って初めて、中国はそれはおかしいと抗議したのです。1945年の時点ではほっておいて、天然資源が埋蔵されていることが明らかになったこの頃になって、突然自分たちのものだと主張し始めるなど虫のいい話ですが、尖閣諸島を巡る今日的な領土問題はこの頃発生したと考えていいでしょう。1978年の日中平和友好条約の調印の際は、尖閣諸島の領土問題は解決を次世代に先送りすることで両国が合意しました。1992年には、中国は海洋法を制定し、正式に尖閣を自国の領土だと宣言しています。

これはもう、歴史的経緯や話し合いでどちらかの領土として決着するような問題ではなくなっているというのが現実です。戦中に書かれた文書や新聞記事などをいくらひっくり返して、「ほらここに沖縄の一部だと書いてあるじゃないか、あの時はお前(中国)もそれを認めていたじゃないか」などと言ったところで、どうにもなりません。これは互いに国益にかかわる問題なので、日本政府も中国政府も「自分の領土だ」と永遠に言い張るでしょう。両国政府が、表向きはなんと言おうと、明らかに、尖閣諸島に「領土問題は存在する」のです。

🎨 尖閣諸島問題は、実は中国とアメリカの争い??
ところで、日中戦争時代、尖閣諸島が日本の占領地であったのは日本が力ずくで占領していたからで、その後アメリカの占領下に置かれたのはアメリカが戦勝国であったからですが、ならば中国も戦勝国です。アメリカが尖閣諸島を沖縄の一部として占領する時点で、「元々は中国のものなのだから中国に帰せ」となぜ主張しなかったのでしょうか?このときアメリカが独断で決めたとしたら、これは、日中間の領土問題ではなく、米中間の領土問題です。そして、その後もアメリカは、沖縄を返還するとき、中国の抗議を押し切って、日本に返還をしました。敗戦国日本に返すのか、日本の占領前に遡り台湾あるいは台湾を中国の一部だと主張する中国に返還するのかという争いになってしかるべきだったのが、そうはならず、アメリカは尖閣諸島は日米安全保障条約に含まれる地域として、日本に返還しました。

尖閣諸島に日米安保条約が適用されるかどうかは、2009年の衆議院予算委員会で当時の麻生首相がアメリカに確認すると答弁し、アメリカから「安保適用」との公式見解を受け取っています。(読売新聞 2009年3月9日)。当然、中国は面白くありません。日本は、日米安保を武器に「日本の固有の領土」と主張しているわけですが、もしアメリカの後ろ盾が無ければそれほど強硬に出ることなどできないでしょう。とすれば、これは表面的には日中間の領土争いであるのですが、実はその水面下を探っていくと、尖閣諸島付近の海域、南シナ海、ひいては東アジア・太平洋地域全体を巡る米中間の争いであることが見えてきます。

🎨 日本の国内政治に神経を尖らすアメリカと中国
今回の衝突事件が意味するものは、こうした経緯を念頭に、日中間外交を超えたところを見据えて分析する必要があります。事件は突発的に偶然起こったものではなく、むしろ「起こされたもの」だと考えるべきでしょう。問題は、どちらがどんな意図を持って仕掛けたのかということです。

注目したいのが、衝突事件が起きた時期、9月8日です。民主党党首選が9月1日に告示され、菅さんと小沢さんが激突する選挙戦に突入していました。次期首相がどちらになるかで、日本外交の進路は大きく変わってきます。太平洋を挟んでそそり立つ大国のアメリカと中国にとって、そして日本政府の外交方針を見極めること、日本を自国に有利な方向に引き寄せることは極めて重大な問題です。両国とも、民主党党首選の行方に神経を尖らせていたはずです。アメリカは当然のことながら、菅政権の継続に向けて様々な「働きかけ」と行っていました。では中国はどうでしょうか。

民主党は結成以来、政権交代を視野に入れて中国との戦略的互恵関係の構築に努め、共産党幹部とのパイプも培ってきました。菅さんは国会議員として数十回も訪中しているし、小沢さんにしても幹事長だった2009年12月の600人訪中で胡錦濤国家主席とも会談するなど、親中派であることには変わりはありません。しかし、中国にとって、菅さんと小沢さん、どちらが首相になった方がメリットがあるでしょうか。

菅さんなら、政治主導と口では言いながら実質はこれまでの自民党政治と大きく変わらず、外交や安全保障政策は対米追随主義が継承されるでしょう。一方、小沢さんは、日米関係とと日中関係は辺の長さが同じ二等辺三角形だ、という主張をしてきました。日米同盟は維持しながら、東アジア諸国同盟を構想し、脱対米追随外交を展開することが予測されます。ただし、小沢さんは領土問題をめぐっては、歴代の政権の誰よりも明確な意思表示をしています。例えば、小泉政権時代の2004年3月24日、尖閣諸島の魚釣島に中国人活動家7人が不法上陸したことがあります。しかし、政府の判断で送検はされず、すぐに強制送還となりました。小沢さんはこの時の政府の判断を「事なかれ主義」と批判し、「僕が首相の立場なら、日本の主権を意図的に侵した活動家7人は法律にのっとって適正に処理する。そして、日本の領土である尖閣諸島に海上保安庁の警備基地などを設置して、国家主権の侵害を認めない」と断言しています。

🎨 中国の国家戦略
中国にとってのメリットを考える前に、その背景として確認しておきたいのは、近年の西太平洋沿岸(東シナ海、南シナ海、台湾付近)を巡る米中両国の対立です。中国は、海軍の近代化を推し進め、近海防御型から外洋展開型に移行して海洋権益を拡大しつつあり、今年3月頃からは南シナ海を中国の「核心的利益」と呼び始めています(毎日新聞9月20日)。7月にベトナムのハノイで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)の地域フォーラムで、クリントン米国務長官は「南シナ海の航行の自由は米国の国益であり、軍事的脅威に反対する」と述べています。日本にとっても、その地域はシーレーン(中東からのエネルギー供給路)でと呼ばれ、まさに日本の生命線が脅かされている状況です。

中国の南シナ海展開の背景にあるのは、中国の当面の目標である「台湾併合」を達成するために、この海域におけるアメリカの軍事介入を削ぐことにあります。もし、中国が台湾や周辺の海域を制圧するようなことがあれば(それはすなわちアメリカの敗退を意味するわけですが)、日本はアメリカではなく中国の配下に入れられることになるでしょう。今日明日そんな事態になることはないとしても、東シナ海や南シナ海で一足触発となる可能性は常に存在するのです。それがいわゆる台湾有事、周辺事態などと呼ばれるもので、それを阻むために両者が睨みをきかせているのが現在の状況です。尖閣諸島の問題は単なる日中間の領土争いではなく、尖閣の海域を含む西太平洋地域全体の覇権を巡る、中国とアメリカの争いと見なければなりません。

では、このような中国の国家戦略において、日本はどう位置づけられているのか、中国の対日戦略とは、いったい何でしょうか。その柱となっているのは、「台湾有事の際に、日本に米軍の台湾救援の軍事介入に協力させないこと」です。中国と台湾が衝突した場合、アメリカは台湾を援護するための軍事行動を起こすでしょうが、その時、日本は日米同盟と「周辺事態法」に基づき自衛隊を派兵し米軍を後方支援することが可能です。はたして、日本が実際に周辺事態法を発動させるかどうか、つまり日米同盟はどれくらい強固であるかを測るのに、民主党党首選前の段階で二通りのシナリオが考えられまた。

シナリオ1:菅政権(対米追随主義)となり、日本がアメリカに追随すればするほど日米同盟は強固になり、周辺事態の際自衛隊が後方支援する可能性は高まる。中国海軍の外洋展開やその先の台湾開放には大きな障害となり、しかも、自衛隊が出動すれば歴史問題とあいまって日中関係は最悪となる。

シナリオ2:小沢政権(脱対米追随主義)となった場合、日本が単なるアメリカの駒となって動く可能性は低くなり、日米関係が悪化する分、日本は中国との新しい戦略的協力関係の構築が不可欠となる。ただし、小沢さんは尖閣諸島や台湾海域のシーレーンは断固堅守するはずで、やはり領土問題と海洋権益をめぐっては戦略的互恵関係の構築も容易くは無い。

🎨 アメリカをけん制する中国
党首選を前に、小沢さんの勝利を阻もうと画策する日本政界の動きや、日本にてこ入れし傀儡政権の菅政権を誕生させようとするアメリカに、中国は神経を尖らせていたに違いありません。いずれにしても、中国にとって、日本の新政権が日米同盟を何処まで重視しているか、日本はアメリカの駒となるのか、実際に周辺事態法を発動させるつもりどうか等を測ることは、対日軍事戦略上非常に重要です。中国漁船と海保の巡視船の衝突事件が、中国側によって「起こされた」のだとしたら・・・、中国は、尖閣諸島付近で衝突が起きればどうなるかという展開を読んだうえで、意図的にアメリカをけん制した、そして日米の反応を試したのではないでしょうか。事件を受けて日本がとりうる対処は「日本の国内法に基づいて拘束して起訴する」か、「早々に釈放してものごとを荒立てない」か、の二者択一です。日本が船長拘束の強攻策に出た場合、対抗して強攻策に出て、日本が屈するまで手を緩めない、というのが中国側の筋書きだったと考えられます。日本が強攻策に出るとすれば、それはアメリカの後ろ盾あってのことですから、中国の目的は、まさに日米同盟の結束の度合いを測ることだったのではないでしょうか。

さて、選挙結果は、菅さんの再選となり、菅改造内閣が発足しましたが、この事件がもたらした影響は様々な方向に及んでいます。まず、文頭で述べたとおり、日本国内では菅政権の危機管理体制の甘さ、リーダーシップの欠如、全てに後手後手に回り行き当たりばったりの政権運営に対する世論の批判が噴出しています。船長釈放の決断には「政治介入が無かった」などと見え透いた嘘を押し通そうとするなど、国民を舐めるにもほどがあります。対外的には、弱腰外交丸出しで日本は圧力に屈しやすい国、御し易い国であることを印象付けてしまいました。政権交代しても対米追従に逆戻りし、独立した国家としてのビジョンは見えず、世界はおろか、アジア地域におけるリーダーの風格も無い・・・これが現在の日本の姿です。


posted by Oceanlove at 15:20 | TrackBack(0) | 日本の政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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