2012年03月23日

米共和党予備選−ロン・ポールの目指す医療政策

前回の記事、米共和党予備選とオバマ・ケアの行方で、アメリカの直面する医療問題とオバマ・ケア、共和党を中心とするオバマ・ケア撤廃の動き、そして各共和党予備選候補者の医療政策を見てきました。さて、ではもう一人の候補者、このブログで数回にわたり注目してきたロン・ポール氏は、どのような医療政策を掲げているのでしょうか?

ポール氏もオバマ・ケアを撤廃すべきと考えています。「オバマ・ケアは絵に描いた餅である」点も、「オバマ・ケアは合衆国憲法違反である」点も、そこまでは他の3人の候補者と同様の意見です。しかし、ポール氏の主張をさらに掘り下げてみていくと、他の候補者たちと最終目標が根本的に異なることが分かります。ポール氏の最終目標は、メディケア、メディケイドを含めた全ての公的医療保険制度とマネージドケア医療(後に説明します)の廃止、政府による様々な医療の認可制度の廃止、そして医療の完全民営化です。この、かなり大胆な、非現実的とも思われる政策の裏にはいったいどんな考えがあるのでしょうか?

ポール氏は、周知の通り、産婦人科の医師として4000人を超える赤ちゃんの誕生に立ち会ってきました。命は、受精の瞬間に誕生するというPro-Lifeの考え方を持ち続け、何よりも命を大切にし、一人ひとりの患者に最良の医療を提供することを目指してきました。そんな、ドクター・ポールだからこそ、どんな医療改革を行い、どんな医療を目指そうとしているのか、その大胆な訴えに耳を傾ける価値があると思うのです。まず、ポール氏の選挙キャンペーンのウエブ上に載せられた文章を見てみましょう(参照)。
“DO NO HARM”
Dr. Ron Paul spent his entire career in the medical profession working to uphold this simple principle by ensuring his patients received the best care he could give them, even if they could not afford it.Dr. Paul understands the key to effective and efficient medical care is the doctor-patient relationship. 

Yet, federal bureaucrats continue to believe that their one-size-fits-all policies will lower costs, increase access, and cure an ailing industry.
Instead, excessive regulation, immoral mandates, and short-sighted incentives have created a system where no one is happy, doctors pass quickly from one patient to the next, insurance is expensive to get and difficult to maintain, and politicians place corporate interests ahead of their constituents.

「害することなかれ」

ポール博士は、医師としてのキャリアを通しこの基本的な教えを守り、全ての患者に、たとえ支払いが困難な患者に対しても、最良の治療を提供することを志してきました。ポール博士は、効果のある効率的な医療のカギは、医師と患者の人間関係であると考えています。かたや政府は、全ての人を一律のルールに当てはめて医療を提供する政策が医療コストを下げ、より多くの人に医療を提供でき、この病んだアメリカの医療を改善できると考えています。

ところが、その医療政策は、規則でがんじがらめになり、良心に反する義務が押し付けられ(筆者注:これについては後に説明します)、目の前の利益ばかり追求する医療システムを作り出しました。そして、このシステムの中では、誰も安心して医療を受けられず、医師は患者とじっくり向き合う余裕はなく、医療保険は高額で加入できず、政治家たちは国民の利益よりも大企業の利益を優先させているのです。(筆者仮訳)

First Do No Harm”は、ご存知古代ギリシャのヒポクラテスの誓いに由来するフレーズで、「何よりも害をなすなかれ」、つまり「患者に利する治療を行い、害となる治療はしない」という意味です。医学の道を志す医学生たちがまず始めに学ぶ基本的な姿勢であると言われています。
ポール氏は、現在のアメリカにおける医療は、コスト抑制を重視した管理型医療であると同時に、特定の利益集団によって政策が決定され、医療を提供するものの基本姿勢である“Do No Harm”に反する歪んだものであると主張しているのです。そこへ、オバマケアの導入により全ての国民に医療保険への加入を義務化しても、医療の改善に繋がるどころか、この病んだ医療システムをさらに悪化させるだけだというのです。

このポール氏の主張を、

1)
マネージドケアの功罪
2) 医療を取り巻く、政・官・業の三角関係

の2つの観点から、2回にわたり解説していきます。

1)マネージドケアの功罪

アートマネージドケア医療とは

近年、アメリカの医療は、基本的にマネージドケアと呼ばれる管理型医療システムで成り立っています。そのシステムを担っているのが、HMOHealth Maintenance Organization)に代表されるマネージドケア組織です。

HMOとは、医療保険会社が、提携する病院や医師たちをひとつのネットワークに取り込んだ会員制医療組織です。このマネージドケア組織は、治療内容や保険適用に関する独自のガイドラインをつくり、加入者に対し、比較的低額な保険料で医療サービスを提供しています。マネージドケア組織には、全米に550を超えるHMO組織(加入者数およそ5600万人)の他、PPOやPOSという組織が存在します(PPO、POSについては後に説明)。

アメリカで民間の医療保険に加入するということは、このHMOなどのマネージド組織が提供する医療保険プランに加入するということを指します。加入者は、選んだプランに応じて保険料を支払い、実際に医療にかかるときには、加入している医療保険プランが指定するネットワーク内の病院のプライマリーケア・ドクター(家庭医)に診療を受ける形になります。熱を出しても外傷を負っても、とりあえず家庭医が診療し、そこで対応できるものは対応します。さらなる治療や専門医による診療が必要な場合は、紹介を受けてこれまたネットワーク内の指定の専門医に行くことになります。

つまり、まずは家庭医でふるいにかけ、高額な医療費のかかる専門医にいく患者の数を制限することで、全体の医療コスト(保険会社が支払う診療報酬)を抑える仕組みとなっています。このマネージドケア医療の仕組みは、1973年にHMO法(Health Maintenance Organization Act)により、従業員25人以上の企業に対しHMOへの加入を義務づけた頃から広まっていきました。

マネージドケア医療の大きな特徴として、医療費の定額払い制があります。アメリカ政府は、レーガン政権時代の1982年、医療費の抑制を目的として、医療保険制度をそれまでの出来高払いから定額払いへと転換してゆきました。出来高払い制においては、保険に加入している患者は自由に医師や病院を選ぶことができ、(保険会社のガイドラインに沿ってではなく)医師の判断で治療が行われます。患者は自己負担額を払い、残りは医療保険から支払われるしくみです。日本の医療は従来は出来高払い制でしたが、最近では定額払いも導入されてきているようです。

しかし、この出来高払い制には、高齢化や医療の高度化に伴って医療費が膨張してしまうという弱点があります。80年代のアメリカは、医療費の高騰が進み、メディケアへの財政支出額が、1965年のメディケア制度発足から17年間で当初の60倍に跳ね上がるという事態に直面していました。また民間保険会社も医療機関への支払いがかさむ分を保険料として上乗せするので、保険料は次第に高額化し、高騰していったのです。

一方、定額払いによる医療保険制度は、マネージドケア医療の中核となる仕組みです。保険会社によって、あらかじめ疾患ごとに治療内容、医療費の支払い上限、入院日数などのガイドラインが細かく定められ、治療はそのガイドラインにしたがって行われ、それに対して定額の医療保険が支払われます。ガイドラインに定められた以上の治療に対しては医療保険は支払われなかったり、患者の自己負担や医療機関の損失になったりします。したがって、医師は治療に関する判断を自由に行うことはできず、ガイドライン内で治療を収めることが奨励されるわけです。定額払い制のマネージドケア医療は、医療費を抑制することに貢献し、80年代後半から90年代にかけて急速に拡大していきました。

ちなみに、今日、マネージドケア組織にはHMOをはじめ、PPOPreferred Provider Organization)、POSPoint of Service)という3つのタイプが存在します。比較的保険料が低額で自己負担額も少ないHMOでは、このガイドラインがより厳しく、患者の治療に関する選択の自由は著しく制限されています。一方、PPOは保険料は割高になりますが、HMOに比べて制限は緩やかで、家庭医を通さず専門医に直接行くことができますし、ネットワーク以外の病院や医師にかかる場合も保険が利きます。ただし、その場合には自己負担率が著しく増え、もともとの保険料が高額なので経済的に余裕がなければ加入できません。POSHMOPPOの中間タイプの保険プランです。

アートマネージドケアの弊害

マネージドケアは、医療コストを抑えた効率性の高い医療である一方で、様々な問題点も指摘されてきました。

まず、
保険のプランや払う保険料によって、患者が医療機関や医師を選択する権利、受けられる治療やサービスが制限されます。病気の治療内容や処方薬などに関する決定も、もはや患者と医師が主体的に行うことはできず、第三者である保険会社によってそのガイドラインが決定されていくことになります。コスト管理が優先され、医師が患者にとって本当に必要と思う治療が必ずしも提供できないという不満や批判が生まれてきました。

公的医療保険であるメディケアやメディケイドも例外ではありません。民間のマネージドケア組織がガイドラインを定めるのと同じように、メディケアなどの場合はHHS(米保健社会福祉省)が医療サービスのガイドラインを作成し、診療報酬を決定します。すでに述べたように、メディケアなどへの支出増加で連邦予算は逼迫していますから、政府としてはガイドラインを厳しくし、いかに医療コストを抑制するかに躍起になっています。

そんな、マネージドケア医療のあり方は、医療の現場に様々なひずみを生んでいます。例えばこんな事例があります。

ある病院で、患者のより早期の完全な回復を助けるため、抗生物質の投与の仕方や服用期間を含む規定を変えたことろ、病院の経営は著しく悪化していきました。調べてみるとその原因は、診療報酬の支払い規定にかかわっていたのです。メディケアに加入している患者が肺炎にかかり人工呼吸器を使用した場合には、メディケアからの診療報酬は実際にかかった治療費に800ドル加算され、同じ患者が肺炎にかからず短期間の診療ですんだ場合には、メディケアからの支払いは実際の治療費より逆に800ドル少なかったのです。患者にとって利益となる診療をしたにもかかわらず、病院は経営不振となってしまった、つまりメディケアの支払いのガイドラインは、患者が肺炎にかかり人工呼吸器を使用する方が病院はより儲かる仕組みなっていたということです。(Waste in health care? For some, it’s profit


病院側は、病院経営のためにより診療報酬の多い医療行為を行おうとする一方、保険会社(またはメディケア)側は、患者の肺炎の治療を行わない方が医療コスト(支払い)が少なく済むので、治療内容と保険適用のガイドラインを操作することで、病院や医師に対して肺炎を防ぐための、あるいは高額な治療を回避するためのインセンティブを与えようとします。それに対し、医師側はガイドラインに縛られて診療の自由を奪われること、またガイドラインに忠実であるか否かが医師としての評価と報酬につながるシステムに
反発します。

同じマネージドケア組織内で、それぞれの利害が対立し思惑が渦巻いています。そして、組織の運営やガイドラインの策定、診療報酬獲得をめぐる熾烈な駆け引きが、複数のステークホルダーたち(保険会社、医療機関、医師団、公的医療保険を運営するHHS、そして法律を決定する連邦議員など)を巻き込んで行われているのです。そして、次回さらに詳しく取り上げますが、その駆け引きには、それぞれの利益を代表するロビイストたちが奔走し、巨額のロビー費が継ぎこまれているのです。

アート患者を常に第一に考える視点

ポール氏は、臨床医としての長年の経験から、ガイドラインに縛られた公的医療保険を含むマネージドケア医療に一貫して反対し、このシステムの中で一番忘れられた存在なのが患者であるということを訴え続けてきました。その信念ゆえに、現役の医師時代にはメディケアからの診療報酬は受け取らず、低額の料金で患者を診察してきたことでも知られています。そして、ポール氏は、マネージドケア医療は、患者の選択の自由を奪い、医師の士気を下げ、医療コスト全体を押し上げ、医療の質を確実に低下させると警告してきたのです。そして、今まさに、アメリカの医療はそれらが複層した大きな課題を抱えています。

ポール氏が目指す医療政策のひとつ、「マネージケア医療の廃止」はここから導かれ、医師がガイドラインに縛られることなく、患者にとって本当に必要な医療を自由に提供することができる「自由診療医療」を目指すべきだと訴えているのです。オバマ・ケアの廃止を求めている点では他の共和党候補者たちと同じですが、その背景にある考え方には大きな相違があります。他の3人の共和党候補者たち医療政策が現状の医療システムの枝葉をいじることでしかないのに対し、ポール氏はその医療システムの問題の根幹に鋭くメスを入れようとしているといえるでしょう。

確かに、患者にとって本当に必要な最良の治療を、というのは言うは安くで、限られた医療資源をどのように配分するのかという問題は、アメリカに限らず多くの国が直面している極めて難しい問題です。公的医療保険にしろ民間の医療保険にしろ、コストコントロールが重要であることは言うまでもありませんが、医療費抑制を重視するマネージドケア医療が、患者の受ける医療の質や、時には命をも左右することになるという視点を、ドクター・ポールは常に忘れないのです。

次回に続く・・・
 


posted by Oceanlove at 05:34| アメリカ政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月22日

米共和党予備選とオバマ・ケアの行方


過去2回のブログで、アメリカ大統領選共和党予備選の候補者であるロン・ポール氏について取り上げてきました。ポール氏の“真実に迫る”興味深い発言や、その政治思想の根底にあるリバタリアニズム、個人の自由と社会的責任に基づいた理想的社会の実現に向けた政治政策について、いくつかご紹介しました。

今回は、アメリカの医療問題に焦点を縛り、ポール氏の政策提言を吟味していきたいと思います。2012年米大統領選挙における医療分野の争点は、オバマ政権が2010年に成立させた包括的な医療保険制度改革法−通称“オバマ・ケア”です。国民皆保険を目指したオバマ政権が何とかこぎつけたこの医療改革ですが、選挙結果いかんでは実現されない可能性があるのです。この争点について話を始める前に、まずアメリカの医療問題について、簡単に触れておきたいと思います。

アート アメリカの医療問題

アメリカには公的な医療保険制度として、メディケア(65歳以上の高齢者・障害者向け医療保険)とメディケイド(低所得者・子供向け医療保険)、また、連邦職員と軍人・退役軍人用の公的医療保険制度があり、合わせておよそ9700万人(国民の約30%)が受益者となっています。一方、それ以外の国民は、雇用者を通じてもしくは個人で民間の医療保険に加入しなければなりません。民間の医療保険は保険料が高額なこともあり、およそ4600万人、国民のおよそ6人に一人が無保険の状態です。医療費は極めて高額で、保険のない人は医者にかかれないのが現実です。

医療保険加入状況
 
U.S. Census Bureau. 2008 *民間医療保険と公的医療保険の両方に加入している人が一部重複しています)

68.2%・・・民間医療保険加入(雇用者を通じた団体契約59.3%+個人契約8.9%) 

27.8%・・・公的医療保険加入(メディケア、メディケイド、連邦職員、軍人・退役軍人用保険)
 

15.3%・・・無保険

その結果、無保険者が救急医療に殺到(救急医療では誰に対しても診療拒否ができないことが法で定められています)したり、その無保険者の医療コストをカバーするために正規加入者の保険料が吊り上げられたり、また既往症のある人が保険への加入を拒否されたり、重病になった患者の家族が借金で家を手放さなければならない、などということが実際に起きています。

公的医療保険のメディケアやメディケイドに加入していれば安心かと言うと、そうも言えません。実際、公的医療保険メディケアはすでに2008年から赤字経営となり、2011年の保険料収入は支出の57%に留まっています。このままでは、今後数年間で破綻するとも言われる状況です。おりしも、アメリカの連邦予算は債務上限に達しており、メディケアとメディケイド合わせて6000億ドル(2011年度)、連邦予算の21%近くを占める医療保険をこれ以上膨らませるわけにはいかず、コスト削減が緊急課題となっています。


アメリカにおける医療費は、高齢者人口の増加と共に年々増加し続け、2009年にかかった総医療費は2.5兆ドル(国民一人あたり8,047ドル)、
GDPの17.3%を占めました。WHOによると、一人当たりの医療費は国連加盟国191ヶ国中最高でありながら、国民の総合的健康状態は72位にランクされています。医療費の高騰、無保険者問題、近い将来に予測されているメディケアの破綻など、アメリカの医療は、国民の健康と命、そして国家の財政にとって極めて深刻な状態におかれています。(Health care in the United States) 

アート 医療保険制度改革法−オバマ・ケア

この問題を改善し、全ての国民が安心して医療を受けられるような社会を実現するという使命感のもと、オバマ政権は2010年3月、医療保険制度改革法(Patient Protection and Affordable Care Act)、通称オバマ・ケアを成立させました。オバマ・ケアはワンフレーズで言うと、「全ての国民に対し、公的医療保険もしくは民間医療保険いずれかの医療保険への加入を義務化することにより、無保険者をなくそうとする改革」です(国による公的皆保険制度ではありません)。

低所得者には、保険加入に当たって税控除や様々な政府の支援が可能になると同時に、加入しない個人や企業には罰金が科せられることが定められました。またこれまでは、既往症がある患者は民間の保険会社から加入を拒否されてきましたが、保険会社はこのような拒否をしてはならないという条項も加えられました。この法律は、段階的に施行され、2014年度から本格導入される予定です。

2000ページ以上に及ぶ法の内容は極めて複雑で分かりにくいという評判ですが、以下に挙げたものが、医療保険制度改革法の主な中身です。(Wikipedia: Patient Protection and Affordable Care Actより)

・3200万人が新たに医療保険に加入することにより、国民の95%がカバーされる。

・保険会社は、既往症を理由に保険加入を拒否したり、加入者の発病を理由に契約解除したりできない。
・保険会社の医療費支払いの上限を撤廃する。
・子供は26歳になるまで親の医療保険でカバーできる。
・メディケア加入者は、自己負担の50%まで国の補助が出る。
・低所得者に対し、医療費負担が所得の15%を超えないような補助の制度を作る。
従業員50人以下の中小企業は、従業員用医療保険料負担の最大50%の税控除を受けることができる。
・従業員50人以上の企業は、全ての従業員用医療保険の負担が義務となり、違反には罰金が科される。
・全ての医療保険は、避妊薬や堕胎に伴う処方箋にも適用されなければならない。
・民間の高額医療保険への加入者に対し、保険料に40%の税金を課す。
・製薬会社と医療機器業者への計470億ドルの増税をおこなう。 
 

 アート オバマ・ケアヘの批判
 


さて、鳴り物入りで成立した医療保険制度改革法ですが、もともとこの法案には共和党を中心に反対派が多く、連邦議会での賛否は真っ二つに分れ、1年以上にわたる大論戦の末にようやく法案可決に漕ぎ着けました。しかし、法律にはなったものの、いまだ改正や廃止の声が上がり続けており、予定通り2014年から本格的に施行されるのかどうか、先行きが分からない状態です。

改革法に関する一般の世論調査も、支持しないが50%、支持するが42%と、評価は二分しています(12年2月27日、ワシントンポスト紙)。11月の本選では、医療保険改革法を守り貫きたいオバマ大統領とオバマ・ケアの廃止を目指す共和党との激しい戦いとなるのは間違いないでしょう。

国民皆保険制度に慣れている日本人から見れば、国民の命や健康を守り、安心して医療にかかれる制度を作ることは政府の義務であると思われるかもしれません。なぜアメリカの世論の半数近くが改革法に反対しているのか、不思議に思われるでしょう。また、オバマ・ケアを潰すなどというのは、国民の健康や福祉よりも自由主義経済や金儲けばかり重視する共和党の典型的な言い分だと思われるかもしれません。

実際のところ、アメリカ国内でも、「共和党は無保険者のことなど本気で考えてはいないのだ」、「高額な民間医療保険に加入して高度な医療を受けられる富裕層は、現状を変えたくないのだ」、「政治家やその家族は、政府の公的医療保険に加入しているくせに、これ以上加入者が増加するとメディケアは経営破たんするなどといって、低所得者たちを締め出そうとしている」・・・そんな巷の声も響いています。

しかし、相変わらずオバマ・ケアへの風当たりは強く、共和党予備選における医療問題はオバマ・ケアへの批判で一色です。ちなみに、オバマ・ケア(Obama Care)という呼び方は初めからあったわけではありません。医療保険制度改革法を指し示す用語としては以前はHealth Care Billとか Health Care Reformなどが使われていました。それが、法律の成立後、同法律反対派が、「医療改革は必要だが、オバマ改革には反対である」ということで、オバマ・ケアと呼ぶようになったのです。ですから、オバマ・ケアという言い方には少々批判的な意味が込められています。

では、いったい反対派は医療保険改革法の何を批判しているのでしょうか?主な点をまとめると以下のようになります。

・総合的に、10年間で約5000億ドルの増税になる。
・製薬会社等への増税により医療コストは上昇する。
・医療費支払い上限の撤廃により、保険会社の出費が増大し、保険料も上昇する。
・3000万人以上が新たに加入しても、それでもなお数百万人が未加入状態のままになると予測される。
・メディケア・アドバンテージを利用する高齢者(メディケアのオプションで、民間の保険も選択できる)の半数は、保険料の自己負担が増加するためこの制度が使えなくなる。
・避妊薬や堕胎に伴う処方箋への保険適用の義務化は、堕胎に反対する宗教法人の運営する病院やクリニックに、その主義に反するサービスを強いるもの、つまり道徳心に背かせる義務(Anti-Conscience Mandate)であり、容認できない。
・One Size Fits All(保険適用の一律のルールを全ての人に押し付けること)は、個人の自由と宗教の自由に違反する

参照:What is the Patient Protection and Affordable Care Act of 2010?
参照:Top Ten things Obama never told you about Obamacare
参照:The Impact of Obama Care
参照:Obama care Anti-Conscience mandate: An Assault on the Constitution

まとめると、オバマ・ケア反対派の主張は大きく2つに絞られます。

一つ目は、一言で言えば、オバマ・ケアは絵に描いた餅ということです。つまり、オバマ政権は、無保険者が保険に加入できるようにし、医療費を抑制することを目指し、財政赤字を増加させずに医療システムを改善する・・・と謳っているが、そんな都合のいい話はない。実際には、様々な形の税や手数料や規則で盛り込まれ、向こう10年で5000億ドルの増税となる。3000万人が新たに保険に加入することによって医療コストそのものは膨張し、保険料はつり上がり個人負担は増える。アメリカの医療問題は解決せず、事態は悪化するというものです。

二つ目は、「政府が個人に対し医療保険への加入を義務付けること」とは、それは言い換えれば、「政府が個人に対し特定のサービスを強制的に購入させること」であり、個人の選択の自由を定めた合衆国憲法に違反するという主張です。先の世論調査でも、個人への医療保険加入の義務付けは憲法違反だと考えている人の割合は76%に上っています(12年2月27日、ワシントンポスト紙)。

アート 共和党予備選候補者、それぞれの主張

さて、共和党予備選候補者は4名全員が、オバマ・ケアへの反対を表明しており、医療保険加入の義務は合衆国憲法違反であるという見方で一致しています。各候補の医療保険問題の考え方や政策には多少のばらつきは見られますが・・・

実は、先頭を走るミッド・ロムニー氏は2006年マサチューセッツ州知事時代に、州政府による公的保険制度いわゆるロムニー・ケアを導入しました。州民への医療保険加入の義務付けや罰則など、オバマ・ケアと類似した制度です。ロムニー・ケアの導入に当たり、保険加入義務への賛否両論はあったものの、「全ての州民に医療保険を提供する」という大目標を成し遂げるためのトレード・オフと理解され、民主・共和両党の協力により鳴り物入りで歓迎されました。

導入からおよそ5年が経過した現在のロムニー・ケアについての評価ですが、州財政への負担が当初の予想よりも重くなっていることや、中小企業経営者の従業員への保険料負担が増加していることへの不満がある一方、現在医療保険に加入している州住民は全体の98%を達成しています。マサチューセッツ州の世論調査では62%の住民がロムニー・ケアを支持していると答え、ロムニー・ケアはおおむね成功しているという評価が上がっています。Poll finds vast majority of Massachusetts residents like Romneycare

このような経緯のため、ロムニー候補はオバマ・ケアへの対応に微妙な立場に立たされています。政府による医療保険加入の義務化は合衆国憲法違反だと口を揃えてはいますが、自身がマサチューセッツ州で導入した医療保険制度の業績は正当化しているのに、オバマ・ケアを否定するのは自己矛盾だと批判される余地は否定できません。ロムニー氏は、基本的な考え方として、医療保険制度は連邦政府ではなく州政府によって運営されるべきであるとしています。ロムニー氏が、オバマ大統領と対峙する共和党候補としてふさわしいと認められるか否か、ロムニー・ケアはその行方に大きくかかわっていきそうです。
参考までに、ロムニー氏、ギングリッチ氏、サントーラム氏、それぞれが主張する医療政策を簡単にまとめて見ました。

【ロムニー氏】
・メディケアの拡充、プランを多様化する
・保険会社が既往症のある患者の加入を拒否できないとする規則は、条件付で撤廃する
・ヘルス・セービング・アカウント(*)を奨励する
・医療訴訟の賠償額に上限を設け、医療全体のコストダウンを図る
・民間医療保険を州をまたいで自由に購入できるようにする
・民間保険への個人加入者に対し、税控除を適用する

(*)ヘルス・セービング・アカウント(HSA)とは
医療費や保険料の支払いなど、医療に関係する使途のために自由に使える銀行預金口座。一定条件の医療保険に加入していれば開設可能で、この口座への預金は所得から控除することができ、連邦所得税や利子への連邦税もかからない。税控除により、医療目的の貯蓄を支援・奨励する仕組み。

【ギングリッチ氏】キャンペーン・オフィシャルサイトより
・メディケアを拡充し、民間保険の選択を含めプランを多様化する
・メディケイドを改正し、州ごとに患者のニーズに応じたサービスが提供できるようにする
・ヘルス・セービング・アカウントを奨励し、患者の医療負担を支援する
・保険会社に対し、加入者の発病を理由とした契約解除や保険料の増額を禁止する
・保険料や医療費に対する税控除を行う仕組みを作る
・医療訴訟を減らし、医療全体のコストダウンを図る
・医療の自由競争を促し、サービスの効率化とコストダウンを図る
・治療に関する選択肢を広げ、患者が医療情報や自由にアクセスできる仕組みを作る

【サントーラム氏】 (キャンペーンオフィシャルサイトより)
・メディケアを含む公的医療保険の拡充には反対
・ヘルス・セービング・アカウントを奨励し、患者の医療負担を支援する
・医療の自由競争を促し、サービスの効率化とコストダウンを図る
・民間保険への個人加入者に対し、税控除を適用する
・民間医療保険を州をまたいで自由に購入できるようにする。

(参照:GOP Presidential Hopefuls: Where They Stand on Health Care

ロムニー氏、ギングリッチ氏は、メディケアなどの公的医療保険を拡充し、サントーラム氏は医療の自由競争をより重視していますが、オバマケアに盛り込まれた「保険会社は既往症のある患者の保険への加入拒否できない」とする規則には3氏とも基本的に反対し、保険業界を擁護する立場です。サントーラム氏は、疾患を抱えている人がより高い保険料を払うのは当然であるとも明言しています。(参照

3氏とも一様に、オバマケアは医療問題を解決しないとしその撤廃を求めていますが、ではその代案は何かと言えば、ヘルス・セービング・アカウントの奨励、保険料に対する税控除、サービスの効率化によるコストダウンなどといった政策であり、あまり抜本的な改革とは言えないと私は感じています。要するに、彼らが主張しているのは、大枠ではアメリカの医療システムの現状維持であり、そこへ仕組みの変更を多少加えて問題に対処しようとしているだけであり、アメリカの医療問題の核心部にはまったくメスは入れられていないというのが、私の印象です。

次回は、もう一人の共和党候補者ロン・ポール氏の医療政策について、見ていきたいと思います。

posted by Oceanlove at 04:52| アメリカ政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月03日

米大統領予備選候補者ロン・ポール その政治思想と政策


前回のブログでは、2012年大統領選挙の共和党予備選の立候補者ロン・ポール氏について、私の目には候補者の中でただ一人、耳を傾けるに値し真実に迫ることのできる政治家であると書きました。そして、そう思う理由について、前回の大統領選挙(2007−08年)当時の、テレビ討論会の発言を引用しながら、ご紹介しました。ポール氏は、アメリカの連邦議会議員であり、2008年の大統領選挙共和党予備選候補者としてただ一人、911のテロ事件に関連して「彼らは我々が自由で豊かだから攻撃したのではない。我々が中東に介入したから攻撃してきたのだ」と、アメリカの中東への介入政策を見直すべきだと訴えた人物でもあります。

今回は、そのポール氏の政治思想とは何か、またその思想は国家のどんな政策に反映されているのか、見ていきたいと思います。

アートロン・ポール氏の経歴
まず、ロン・ポール氏の経歴について簡単に触れておきます。(ウキペディア:Ron Paul より

ポール氏は、1935年ペンシルバニア州ピッツバーグ生まれで、父親が乳製品業を営む家庭で育ちました。高校時代は陸上競技200メートルの州チャンピオンでした。大学で生物学を学んだ後、デューク大学医学部に進み、1961年に医師免許を取得しました。1963〜68年まで陸軍と空軍で軍医を務めた後、テキサスに拠点を移し、産婦人科医として開業します。妻キャロルとの間に5人の子供がいます(3番目のランド・ポールは、2010年ケンタッキー州から連邦議会上院議員に選出されました)。

初立候補は1974年。初当選は1976年、テキサス州共和党下院議員に選出されました。1976〜77年、79〜85年、そして1997年から現在にわたり、計10期下院議員を務めています。下院では、外交および金融サービス委員会に属し、「通貨政策とテクノロジーに関する金融サービス小委員会」の委員長です。1986年にはリバタリアン・パーティーから、また2008年は共和党から大統領選挙に立候補しており、2012年の大統領選挙は3度目の立候補です。リバタリアンの政治思想に傾倒していることを表明しており、2008年には共和党候補でありながら、党の方針と対立する数々の政策を打ち出し、その異色の存在が注目を集めました。しかし、主流のメディアからは異端視され、共和党候補の本命と見なされることはありませんでした。

2008年の共和党予備選から撤退したのちも、国民にとって真に益となる政治政策や独自のアイデアを広めるための活動を精力的に展開してきました。その活動のひとつが、 “
Campaign for Liberty”(自由のためのキャンペーン)という政治活動団体の創設です。その目的は、「合衆国憲法に根ざした小さな政府のメッセージを広めると同時に、草の根レベルの組織を作って、効果的な選挙キャンペーンを行い国政・地方選挙で勝てる活動家を育成すること」であるとしています。

オバマ政権がいばらの道を歩き始めた2009年、共和党保守の中からティーパーティー運動が沸き起こったのはご存知の方も多いでしょう。実はこのとき、小さな政府、他国への不介入主義、個人の自由、といったポール氏の政治思想が、図らずもティーパーティー運動をバックアップする構図が生まれました。その何十年もぶれのない主張が共和党保守派に新たな高揚感と共感とを呼び起こし、若い支持者たちからは信奉を得るようにさえなりました。

この頃から、共和党の異端児から、時の人へと、メディアの取り扱われ方も変わってゆきます。今回の共和党予備選では、獲得代議員数では現在4番手ながら、そのキャンペーンは熱気を帯びており、メディアへの登場数も他の候補者に引けをとらない活躍を見せています。


アートリバタリアニズムとは
次に、ポール氏の政治思想について見てみましょう。現在ポール氏は共和党の政治家ですが、かつてはリバタリアン・パーティーに所属していた経歴にもあるとおり、ポール氏の政治家としての心髄にあるのは、リバタリアニズムという思想です。いったい、リバタリアニズムとはどんなものなのでしょうか。ウキペディアにはこう書いてあります。(ウキペディア:リバタリアニズムより

自由主義思想の中でも個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する政治的イデオロギーである。リバタリアニズムは他者の権利を侵害しない限り、各個人の自由を最大限尊重すべきだと考える。」 

リバタリアニズムの根幹は、この「個人の自由の理念」、すなわち、人はみな、他人に害を及ぼさない限り、自分の選択した生き方をする権利がある、というとてもシンプルな理念です。個人の自由にも身体的自由、信教の自由、財産所有の自由など様々な自由がありますが、リバタリアニズムにおいて最も重要な自由の指標とされているのが、私的財産権の自由です。個人の財産が政府や他のものによって侵害されることは、個人の自由の制限ひいては破壊に繋がると考えるのです。この考え方は、経済・財政政策に大きく反映し、例えば、政府が一方的に様々な税を徴収する仕組みに対しても異論を唱えています(このことについては後でまた触れます)。

リバタリアニズムは「自由主義」ではないのかと思われるかもしれませんが、それは違います。自由主義は、「リベラリズム」の訳語です。ここで、リバタリアニズムとリベラリズムの違いをはっきりさせておかなければなりません。

リベラリズムも、身体的自由、信教の自由、財産所有の自由など個人の自由を尊重します。しかし、リベラリズムはその前提として社会的公正を重んじ、社会的公正のために個人の自由を制限することを認めている点で決定的に異なります。ですから、国民から税金を徴収し、税金で社会福祉や教育など幅広い公共政策を行うことや、弱者や貧困の解消のために法的に富の再配分を行うことは、リベラリズムにおいては正しく、現代の多くの先進国の政治はリベラリズムの理念に基づいています。

これに対し、リバタリアニズムは完全自由主義、自由至上主義であり、公共の福祉のためであれ、使い道が何であれ、政府が税という形で私有財産の一部を強制的に取り上げることは、公権力による個人の自由の侵害であるという点で、基本理念に反するとしています。

これだけですと、血も涙もない思想のように聞こえますが、リバタリアニズムでは、社会的弱者の支援や貧困の解消などに必要な援助などは、徴収した税金で政府が行うものではなく、個人の自由な意思による寄付で行われるべきものである、と主張します。そして、リバタリアニズムの理想とする社会においては、そのような寄付行為は、

富めるもの当たり前の社会的責任として認識される」「努力した者が経済的に報われることは全くもって正しい事であり、成功者が正しく報われることによってこそ人々に努力のインセンティブを与え、市場経済全体が底上げされ


としています。(ウキペディア:リバタリアニズムより

また、リバタリアニズムの考え方によれば、個人の自由には、自分の行動や選択の結果に対する責任が伴うとされています。この自己責任の原理が、人をして正しい行動や選択を行い、成功へ導くモチベーションになると考えられています。また、そこまでの自由が保障されることによってこそ、多様性というものも尊重される社会になるとも考えられています。したがって、リバタリアニズムの考え方においては、国家は法によって個人の自由を“制限”してはならず、国家(=連邦政府)の究極の役割とは、「個人の生命、自由、財産を保護すること」に尽きると考えます。国家の法律で制限されるべきものは、殺人や盗みなどの犯罪に限られ、他人に害を及ぼさないいかなる個人の行動も制限されるべきではない、と主張するのです。


アート国政政策への反映
さて、「国家の役割とは、個人の生命、自由、財産を保護すること」が、リバタリアニズムの政治理念であるということを述べてきました。この理念がポール氏の政治家としての根底にあり、「自由のための新たな運動」の先駆者として、ポール氏は長年にわたり様々なメッセージを発信し続けてきました。では、ポール氏はこの理念を、アメリカの国政の場でどのような具体的な政策に反映しようとしているのでしょうか?ここからは、今、現在進行形で繰り広げられている共和党予備選で、ポール陣営が展開している政策提案や公約を、財政、経済、国防、エネルギーの分野を例に、まずは簡単に見ていくことにします。 


【財政政策】 
Ron Paul 2012 Restore America Now より

減税を提唱。税の徴収は、基本的に、個人・企業の財力を削ぎ、生産性を低下させ、創造力を蝕み、投資欲を損ない、中間層や貧困層の生活を蝕むと考えます。逆に言えば、減税によって個人資産は増え、消費が伸び、学費が賄え、企業の投資が高まるというのが基本的なスタンスです。

ポール氏は、憲法改正により連邦所得税、相続税、キャピタルゲイン税、年金所得への課税を廃止することを公約に掲げています。この大幅減税は、小さな政府の実現、つまり財政支出のカットと車の両輪であり、海外援助、海外派兵、企業への補助金等の中止、5つの省庁の削減により1兆ドルの支出削減を行うとしています(
参照)。

【経済政策】 
Ron Paul 2012 Restore America Now “Economy より


自由主義経済を徹底する。政府による企業への税控除や補助金、規制等の介入を一切撤廃するとしています。政府による市場介入は、公正な競争を妨げ、利益誘導や汚職を招き、物価を上昇させ、結果的に経済に悪影響を及ぼすというのが基本的な考え方です。

金融危機に際し、債務超過に陥った銀行を破綻させずに救済し、政府予算の拠出をさらに拡大しました。これは、政府が政府の規制や権限によって特定の企業や銀行をてこ入れするという、大元の構造的問題を再びなぞっただけであり、根本的な問題解決にはなっていないとも主張しています。具体策を以下にあげます。

         適正財政に合致しない(歳入と歳出がアンバランスな)予算案を阻止する。
        
財政赤字の上限の引き上げを阻止し、歳出を削減させる。
        
FRB(連邦準備制度システム)の徹底した監査を要求し、最終的にはFRBを撤廃する。FRBはドルの価値を減少させ、ドルを増刷しては赤字を埋め合わせるという愚考を繰り返してきた。
         巨大企業によるホワイトハウス占拠(ロビー活動)を止めさせる。
        
高速道路燃料税の廃止、天然ガス仕様の車両への税控除をおこなう。

*経済・金融政策、とりわけFBRについて、次回以降ブログの続編で詳しく検討する予定です。



【国防政策】 
Ron Paul 2012 Restore America Now “National Defense より


国防は、合衆国憲法が定めた連邦政府の最も重要な責務であるとしながらも、世界135カ国に展開する米軍のミッションは往々にして不明確で、何が勝利なのか定義も曖昧であると指摘しています。他国の政治や選挙に干渉したり、他国の特定の指導者を擁立したり、爆撃によって罪のない市民を巻き添えにする行為が、逆にアメリカへの敵対意識を生み、国内外でのテロ行動を誘発させているという見解を持っています。また、このような世界の警察のような振舞いや国家建設(他国への干渉)などの外交政策は、国内財政を逼迫させ、国力を弱体化させていると主張します。

アメリカの自由にとって大きな脅威であるテロリズムへの対処するためには、まずアメリカの外交政策を見直さなければならないとし、「不介入主義」、「平和主義」、「自由貿易」を3本柱とする外交政策を提唱しています。具体策として以下のようなものがあります。

         国境警備を国防の最優先課題とする。
        
長期にわたる他国への派兵や介入は中止し、軍事作戦はアメリカを標的とするテロリストの逮捕に焦点を絞る。
        
戦争の開始は、憲法の定めに従い連邦議会が宣言しなければならない(議会の宣言なしに戦争を開始することは違憲である)。
        
縮小整理で軍事予算を削減し、21世紀型の活力ある軍事力を備える。
         アメリカ国民の血税で他国の為政者や独裁者を肥やすだけの対外援助(
ODA等)は中止する。

【エネルギー政策】 Ron Paul 2012 Restore America Now “Energy より


自由市場主義に徹する。連邦政府による各種の規制、特定業界への補助金、エネルギーへの高い課税が、末端の消費者を圧迫していると指摘します。環境保護団体や業界団体などの圧力により作られる政府のエネルギー政策(炭素税や
CAPTradeなど)や規制は、消費者を特定のエネルギーや電力へと誘導し、その市場拡大を狙った作為的なものであるため、エネルギー市場の自由競争が捻じ曲げられ、その結果、石油、炭素、天然ガスなどの従来の生産は打撃を受けるばかりでなく、新しいエネルギー技術開発の模索や公正な開発競争も妨げられる。したがって、消費者は高い電力コストを支払い続けることを強いられていると主張します。具体策として次のようなものがあります。

         アメリカ海岸沖での原油採掘を奨励し、輸入への依存を減らす。
        
ガソリン税を廃止し、一ガロン当たり18セント価格を引き下げる。
        
石炭と原子力発電を妨げている規制を廃止する。
        
DOE(環境省)やEPA(連邦環境保護局)を廃止する。企業の環境汚染に対しては連邦政府が関与する必要はなく、環境を汚染した業者は、裁判を通じて被害者に対し直接的な責任を負うべきである。
         代替エネルギーの生産や購入には税控除で酬いる。


アート原子力エネルギーについて
ちなみに、原子力エネルギーについては、技術面・安全面の可能性は否定していません。むしろ、米原子力潜水艦の実績から、原子力エネルギーの技術や安全性について認める発言も行ったり、政府による規制で原発が妨げられるべきではないとも主張しています。これだけでは一見、原発擁護派のように見えますが、ポール氏が原発エネルギーを支持するのか否か、それを見分けるためには、原発云々以前のポール氏の最も原理的な考え方を理解する必要があります。

ポール氏は、上記の具体策にあるように、エネルギー分野を管轄している米環境省(
DOE)を廃止し、エネルギーを完全に自由市場経済の下に晒そうという、突拍子もない提案を行っています。これはどういうことかというと、原発に限って言えば、環境省がなくなるということは、国による様々な規制や安全管理の規定が無くなる代わりに、原発産業への多額の開発補助金もなくなり、原発の管理・運営は完全な企業責任となるということです。また、事故の際には一定以上の補償を政府に転嫁(税金で補償)できるとした「プライス・アンダーソン法」も無効となります。開発から事故処理、廃棄物管理まで一切企業責任で行わなければならないということです。そうなると、それらにかかる一切のコストが電力の小売価格に反映されていくため、公正な自由市場競争では他のエネルギーに勝てないであろうことが示唆されるのです。

つまり、ポール氏の言い分は、ビジネスは自由ですよ、原発の開発も安全性もリスクも全て自己責任で行い、それでも消費者に魅力的な価格で提供できるならおやりなさい、国はそれを妨げる立場にはありません、ということなのでしょう。裏を返せば、政府と業界の癒着、多額の補助金、事故時の責任の転嫁によって成り立っている現在のアメリカの原発産業は、自由競争では勝てないということです。

これは、消費者はモノやサービスが安全で安ければ買うし、そうでなければ買わないという市場原理を徹底的に追求した考え方です。安全管理は国の規制によってではなく、消費者の厳しい目に晒すことによって行われるべきで、リスクが高く価格も高いものは自然と淘汰されてゆく、原子力エネルギーもそれに任せましょうというのが、ポール氏の主張なのです。個人や企業の自由と自己責任、自由市場主義という、まさにリバタリアンの政治理念が反映された政策といえるでしょう。


その他、以下のような政策を提言しています。いづれも、「個人の自由の保護」と、「政府の不介入」という基本理念に基づいています。

・銃規制の撤廃。銃規制は、合衆国憲法修正第2条に記された自己防衛権の侵害に当たる。現在の銃規制が、銃犯罪の撲滅には寄与していないことは明らかである。
・麻薬の合法化。麻薬売買の規制は、当局による取締りと犯罪のいたちごっこを助長するだけである。規制によって、闇の麻薬市場を拡大させ、密輸組織による組織的犯罪を悪化させる要因となっている。
・同性婚については中立(?)。個人的には婚姻は男女間で行われるべきと考えるとした上で、その考えを社会に強要するべきではないとする。そもそも、婚姻とは個人の宗教観価値観に基づくもので、連邦政府が規定したり、法制化すべきものではないと指摘。結果的に、同性婚の合法化に賛成なのか反対なのか、有権者にとっては、判断のつきかねない態度となっている。
・小さな政府を実現するために、連邦政府の役割を縮小し、社会福祉、教育、各種の規制、年金・医療等を各州の自治の下に置くべきである。

さて、ここまで、ポール氏の主張する税制、経済、国防、エネルギー政策について、基本的考え方を見てきました。次回は、医療政策について、詳しく見てみたいと思います。


posted by Oceanlove at 18:44| アメリカ政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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