東シナ海における尖閣諸島の領有権問題や、日中の船舶の衝突、中国の南シナ海への進出などについて議論するとき、私たちはそれは日中間の問題としか見ない傾向があります。しかし、本稿では日中間の領土問題は、地理的には日中間の争いでありながら、その根底にあるのはより大きな米中対立である、という立場に立っています。
神田外語大教授の興梠 一郎氏は、中国の海洋戦略は、中・長期的には、アメリカとの軍事衝突を想定した防衛ラインの拡大だと指摘し、「米中新冷戦の中に日本がすっぽり入っている状態だ」と表現しています。新冷戦とは、中国の台頭によって生まれた、アメリカと中国、太平洋を挟んだ大国同士の対立構造を指すわけです。もちろん、現在の米中関係は、経済的交流もなかったかつての米ソの冷戦とは似て非なるものです。しかし、日中問題は単に二国間の問題としてではなく、より大局的な米中の対立構造の中で捉えていく必要があるということです。
では、より大局的な米中の対立構造とは、どのようなものを指すのでしょうか?つまり、アメリカと中国の間には、具体的にどのような利害対立があるのでしょうか?
米中の利害対立の主なものとして、以下の3点が挙げられます。
・東シナ海の尖閣諸島をめぐる問題
・台湾問題
・南シナ海における中国とASEAN諸国間の領有権問題
なぜ、日中の尖閣問題が出てくるのかと思われるかもしれませんが、上記の3つのいずれの問題も、係争にかかわる国や地域は異なりますが、狭義的には中国と近隣のアジア諸国との間の領有権対立であり、広義的には、米中による海洋権益とアジア太平洋地域への影響力をめぐる対立であると言えます。南シナ海の問題と、日本が直接かかわっている東シナ海の尖閣諸島をめぐる問題については、後のシリーズで詳しく考察することとして、ここでは、まず台湾問題について簡単に触れておきたいと思います。
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