2013年05月20日

日本の安全保障と将来の道 シリーズ(5)中国の核戦略と近海防衛戦略(続編)

この記事は、前回の「シリーズ(5)中国の核戦略と近海防衛戦略」 の続きです。

アート米中の軍事力比較

ここまで、中国の海洋戦略とは、「近海防衛戦略に基づき、第一列島線内へのアメリカの進入と影響力を排除し、海洋権益を掌握することであり、海軍の増強や核戦略はその手段である」、という解説をしてきました。では、実際に米中の軍事力はどのような関係にあるのでしょうか。

表1.は、ストックホルム国際平和研究所の資料を基に、2012年の米中の(そして参考までに日本)の軍事予算、対GDP比、兵力数、艦船の保有数などを比較したものです。

アメリカの軍事予算は、6,896億ドルと世界第一位で突出し、第二位の中国の1,293億ドルを大きく引き離しています。全体の兵力数では、中国(人民解放軍)が勝っていることが分かります。アメリカは、世界に展開する11機の空母と、長距離かつ長期航行が可能な原子力潜水艦を保有し、そして一時期よりは削減されたものの、およそ8,000の核弾頭を保有しています。  

   
   表1.アメリカ・中国・日本の軍事比較 
 アメリカ中国日本
軍事予算6896億ドル1293億ドル545億ドル
対GDP比4.7%2.7%1%
兵力数1,569,4174,585,000247,746
空母112 (ヘリ空母)
潜水艦(原子力/通常動力)57//64/18
戦闘艦(巡洋艦・駆逐艦・フリゲート)1037846
核弾頭8,000240
軍事力比較 日本・中国・韓国・北朝鮮・アメリカ・ロシア 「2012年世界の核兵器の数 2012年国別ランキング」 (ストックホルム国際平和研究所)より) 

アメリカの軍事規模が圧倒的であることに違いはありませんが、特記すべきこととして、以下の点を挙げておきたいと思います。 

・イラクとアフガニスタンでの戦争で膨れ上がったアメリカの軍事費は、2008年ころから横ばい(6,000−7,000億ドル)となり、巨額の財政赤字のため2013年度予算は50億ドル削減されるなど、減少傾向にあること。一方、中国の軍事予算は、2010年の764億ドルから、2011年には915億ドル、2012年に1,293億ドルと急速に増加しており、今後も伸びていくことが予測されていること。 

・アメリカの軍事力は、世界中にある米軍基地(主にNATO諸国、中東諸国、東アジアの同盟国)に分散しているが、中国の軍事力は中国の国土とその近海(第一列島線内)に集中していること。 

・アメリカは、米ロ間のSTART(戦略兵器削減条約)に基づき、戦略核を削減させてきていること。核弾頭数は、3万発以上あった冷戦中と比べると、84%が削減されたこと。 

・中国の軍事力は近代化が急速に進み、量だけでなく質(軍事技術の高度化、情報通信、サイバー戦略など)を高めているが、(産業スパイ活動など)その手法の不透明性が懸念されていること。 

表2.は、東アジアにおける米軍のプレゼンスと各国の軍事力を陸上兵力、艦艇、戦闘機の数で比較したものですが、いずれも、数の上では中国が圧倒的であることがわかります。

     表2.東アジアにおける各国の軍事力
 中国在日・在韓米軍・第七艦隊韓国台湾日本
陸上兵力(海兵隊)160万(1万)3.4万人52万(2.7万)20万(1.5万)14万人
艦艇,090隻20隻190隻340隻143隻
作戦機,070機250機610機520機420機
平成24年版防衛白書「アジア太平洋地域における主な兵力の状況」より

アート米中の核戦略比較 

では、核兵器についてはどうでしょうか。核兵器は、「戦略核」「戦術核」の二種類に分けられます。破壊力が大きく、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などに搭載される大型の「戦略核」に対して、射程距離が短く、小型で戦闘機などから発射でき局所的な攻撃に使用するものを「戦術核」といいます。 

アメリカの「戦術核」は、以前は韓国やNATO諸国の米軍基地に大量に配備されていました。1991年の時点では合わせて実に7,600発配備されていたものが、現在は500発ほどに削減されています。これは、長距離を運行可能な戦略爆撃機が発射する空中発射巡航ミサイル(ALCM)の技術向上により、射程距離の短い核ミサイルの必要性が低くなったことが大きいようです。 

ですから通常、「核抑止力」という場合、破壊力の大きい「戦略核」がどこにどれほど配備されているかが問題となります。もちろん、核保有国にとって核戦略は国家機密であるため、配備状況を正確に把握することは難しいのですが、ロシアとアメリカについては、ある条約に基づき、その保有数が公表されています。その条約とは、1991年、ブッシュ、ゴルバチョフ両大統領によって調印されたSTARTI(戦略兵器削減条約)です。米ロ間で、(戦略)核弾頭数を6000発に削減し、その核弾頭の運搬媒体(ICBM、SLBMの核ミサイル、および戦略爆撃機)の合計を1,600機に削減する、という史上初めての試みでした。 

次いでブッシュ・エリツィン両大統領は、核弾頭数をさらに半減するSTARTII(1993年)、ブッシュ・プーチン両大統領による戦略攻撃戦力削減条約(2002年 モスクワ条約)が署名され、2010年には、オバマ大統領とメドベージェフ大統領が新STARTに調印しています。両国の戦略核弾頭は1550発と当初の4分の一、運搬手段は800基にまで削減することが盛り込まれています。 

この条約に基づき、2012年11月、米国防総省が発表した報告書New START Treaty Aggregate Numbers of Strategic Offensive Arm” によると、現在アメリカが実戦配備している戦略核の運搬媒体は、ICBM(449基)、SLBM(239基)、戦略爆撃機(118基)の合計806基となっています。そして、その各機に搭載され、発射態勢にある戦略核弾頭は合わせて1,722発(一機につき複数の核弾頭搭載が可能なため)となっています。 

また、実戦配備されずに保管されている核弾頭はおよそ2,800発、それ以外に、戦術核が500発、解体予定となっている残りを合わせると、アメリカが保有する核弾頭数はおよそ5,000発とされています(2010年)。Arms Control Association “Nuclear Weapons: Who as What at a Glance”) 

たとえば、米ワシントン州バンゴールに配備されたオハイオ級原子力潜水艦(SSBM)には、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:トライデントD5)が24基装備されています。このSLBMは一基あたり8〜14発核弾頭を搭載できるので、最低192発の核弾頭が発射態勢にあるということです。太平洋上には、このオハイオ級原潜2隻が、常時警戒にあたっています。 

では、中国が保有しているとされる240発の核弾頭はどのような状態に置かれているのでしょうか。中国に関しては、新START条約に基づいて公表された数字はありませんが、国連の軍縮研究所(UNIDIR)が、2013年に出した報告書“A New START Model for Transparency in Nuclear Disarmament Individual Country Reportsに、英・仏・そして中国の核の保有状況に関し、新START条約と同様の基準で数字を割り出しています。 

この報告書によれば、中国が保有する240発の核弾頭のうち、180発が運搬媒体(ICBM、もしくはSLBM)に配備(Operational)されているが、中国では平時には、核弾頭は運搬媒体と切り離し保管されることになっているので、これらの核弾頭は発射態勢にはないとされています。 

ではその、運搬媒体のミサイルの状況はどうかというと、中国が保有する大陸間弾道ミサイル(ICBM。新START条約に定められた、射程5,500キロ以上の大陸間弾道ミサイル)には、以下のようにFD-5A、DF-31、DF-31Aの3種類、合計60基あるとされています。 

DF-5A  射程13,000キロ 20基(単弾頭)
DF-31  射程7,400キロ 20基(核弾頭3発搭載可能) 
DF-31A 射程11,200キロ 20基(核弾頭3-6個搭載可能) 

また、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)には、JL-1とJL-2の2種類があり、それぞれ夏級原潜(SSBN)とその次世代の普級原潜(SSBN)が発射媒体となっています。夏級原潜は、射程1,770キロのJL-1を12基搭載できますが、現在配備はされていない(Operationalではない)とされています。また、普級の原潜2隻に関しては、現在建設中、また、そこに搭載されるとされる射程7,200キロのJL-2に関しても、開発段階にあります。したがって、中国には、実戦配備されたSLBMはないという報告となっています。  

まとめると、以下の表3.のようになります(新START条約に規定された戦略核のみ対象)。

     表3.米中の核配備状況の比較 
 中国アメリカ
核弾頭総数2405000
実戦配備された運搬媒体60806
発射態勢にある核弾頭1722

ただし、中国が保有する核兵器の総数や状態などは、軍事機密として明らかにされてはおらず、核弾頭数240というのもあくまでも推測によるものです。また、上記の配備されたICBMが60基という数字は、射程距離が5,500キロ以上の弾道ミサイルに限られた数字です。
 しかし、中国との距離の近いアジア諸国は、これより射程距離の短い中距離・短距離ミサイルの保有数にも注意をする必要があります。

国際戦略研究所の2010年の報告書によれば、中国のICBM以外のミサイルの配備数は以下のように合計
412基とされています。このうち、上の表3.に含まれていない中距離・準中距離弾道ミサイルにも核弾頭の搭載は可能なことから、少なくともこれら118基に核弾頭が配備されている可能性があるということになります。(国際戦略研究所: International Institute for Strategic Studiesによる報告書 “Military Balance 2010” Wikipedia「中華人民共和国の大量破壊兵器」より 

中距離・準中距離弾道ミサイル(IRBM・MRBM)、核弾頭搭載可能
DF-3A 射程 3,000キロ 2基
DF-21 射程 1,750キロ 80基
DF-21C 射程 1,750キロ 36基 

短距離弾道ミサイル(SRBM) 
DF-15 600キロ 96基
DF-11A 300キロ 108基 

対地巡航ミサイル(LACM) 3,000キロ 54基 

潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)
JL-1 1,770キロ 12基
JL-2 7,200キロ 24基


ラベル:戦略核 核弾頭
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2013年05月17日

日本の安全保障と将来の道 シリーズ(5)中国の核戦略と近海防衛戦略


前回のシリーズ(4)「中国の海洋戦略」では、中国が南シナ海の領有権を主張する根拠と、ASEAN諸国と中国の係争の歩みについて解説しました。

中国の南シナ海への進出の主な狙いの一つは、豊富な石油や鉱物などの海洋資源と海上交通の確保、つまり経済的な利益のためであるということは既に述べましたが、今回は、もう一つの狙い、すなわち安全保障上の狙いについてみていきます。

CSIS(Center for Strategic and International Studies :戦略国際問題研究所。アメリカ、ワシントンにある超党派シンクタンク)が発表した、「南シナ海における資源、領有権問題、そして米中の戦略的対立関係」と題するレポートには、中国の海洋戦略の目的として、以下の三つが示されています。

1)   台湾独立を阻み、アメリカが台湾支援のための武力行使することを抑止すること。
2)   中国の原油輸入の80%が依存するインド洋からマラッカ海峡へと抜ける海洋貿易のルートを守ること。
3)   太平洋において、中国海軍が、アメリカとの武力衝突を回避する究極の抑止力である、「核の報復能力(Second−strike nuclear capability)」を保持すること(この後説明)。

The Washington Quarterly Spring 2012  “The South China Sea: Oil, Maritime Claims, and U.S.-China Strategic Rivalry”

この報告書は、もし中国の南シナ海進出の目的が、海洋資源の開発や海洋貿易のルートの確保など経済的な利害だけであるならば、中国とASEAN諸国による協議により、係争の平和的な解決が可能であったであろう、とも述べています。現に、すでに触れたとおり、ASEAN諸国は中国を協議の場に引き入れ、南シナ海における各国共通の行動ルールを設け(2002年の南シナ海行動宣言)、そのルールを尊重することで、平和的に係争を解決する努力を進めてきました。

にもかかわらず、その努力が報われていないのはなぜでしょうか。

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2013年05月07日

日本の安全保障と将来の道 シリーズ(4)中国の海洋戦略

前回のブログでは、アジア太平洋地域での米中対立という視点から、南シナ海の領有権問題を取り上げました。「南シナ海の領有権問題のあらまし」「国連海洋法条約」で見てきたように、海洋に関する法の支配、国際的ルール作りの努力が進められる一方、中国は着々と独自の海洋戦略を進めています。今回は、中国の海洋戦略と、南シナ海における米中対立の構造について解説していきます。

🎨中国が南シナ海の領有権を主張する根拠

中国の南シナ海への進出の主な狙いの一つは、豊富な石油や鉱物などの海洋資源と海上交通の確保、つまり経済的な利益にあります。経済発展に伴い貿易相手国が世界各国に広がる中、中国の貿易の70%は海上輸送に依存し、海上交通の重要性はますます高まっています。南シナ海を通過して中国へ輸送される中東やアフリカからの石油輸入の割合は、石油需要のおよそ3分の2を占めています。急増する国内の石油需要に応えながら、輸入依存を減らしたい中国にとって、豊富な天然資源の眠る南シナ海はまさにエネルギーの宝庫です。南シナ海の海洋権益を獲得するために、中国は以下のような独自の主張を行ってきました。

・南シナ海における中国の権利は、国連海洋法条約の成立以前に形成されていたものであり、新しい条約は、一国の歴史的権利を否定することはできない。
・排他的経済水域は、沿岸国の管轄のもと、沿岸国の経済と安全保障利益に資するものであり、公海の一部ではない。よって、他国の艦船や航空機の通行や訓練は事前の許可を得なければならない。
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