2010年01月16日

子ども手当てに関する考察

政府の子育て支援の一環で、平成22年度から創設が予定されている子ども手当てについて、検討してみました。15歳以下の子どもに対し、今年度は月額1万3千円、23年度からは月額2万6千円を支給するというものです。初年度は2兆4千億円、以後は年間5兆円に上る歳出が見込まれています。

子育て支援という名のばらまき
内容を吟味して、先ずはじめに感じたことは、これほど目的が曖昧で将来の国にとって利益が不確定なもののために、毎年5兆円の国家予算を使うとは納得できないということです。それだけの予算をつぎ込むのであれば、明確な目的とその根拠を示し、将来の日本のためにそれだけの投資をする価値があることを示すべきです。

私は、民主党の子供手当ては、少子高齢化がますます進む日本の将来に向けての少子化対策の柱になるものだとばかり思っていました。つまり、年間5兆円もの予算をつぎ込むからには、子育てという仕事を国が金銭的に支援することによって、その先には少子化を食い止め、出生率を向上させるという大きな目的があるものかと思っていたのです。

でも、よく見てみたら、子ども手当て法案要綱には、「 この法律は、子どもを養育している者に子ども手当を支給することにより、次代の社会を担う子どもの成長及び発達に資することを目的とすること」と書かれています。少子化対策ましてや出生率などという言葉はどこにもなく、本当にそのまま、(その保護者を通して)子供一人一人に配られるお金であることがわかり、驚きました。所得制限が設けられなかったのも、この制度が、「どんな子供にも保障される権利」という理念から来ているものだからだそうです。つまり、子ども手当ては、親の収入に関係なく子供一人一人に向けて配られるもので、現行の児童手当のような経済的に苦しい家庭への支援である社会保障制度とは性質の異なるものであるということです。

では、これはむしろ景気対策でしょうか?確かに、15歳以下の子供を二人持つ親の立場からみると、月々5万2千円は大きな収入です。習い事の月謝になる家庭もあるでしょうし、食費の一部になったり、家族のレジャーに使われる場合もあるでしょう。必ずしも、子供のための養育費に使われるとは限りませんが、可処分所得が増えるので、何らかの消費に廻るとは思います。一方で、一人当たり月々2万6千円もらえるといっても、それを当てにしてじゃあ子供を産もうとか、もう一人増やそうとか、そういう発想につながるとはあまり思えません。なぜなら、子育てを取り巻く他の様々な環境(保育所、労働時間、職場復帰等の問題)の改善や制度が全く不十分だからです(これについては後でまた書きます)。だとすると、少子化対策としての効果は薄く、この制度は中学生以下の子供を持つ世帯の家計支援という面が一番大きいと言えます。しかし、一方で子供のいない世帯では増税ですから、不公平感もあり、景気刺激策というには方手落ちです。また、手当てのお金がすぐに消費されず貯蓄などに廻った場合は、景気刺激策としての効果は少なく、なんとも中途半端という感じが否めません。子育て支援という名の無策なばら撒きと称されてもおかしくありません。

「次代の社会を担う子供の成長及び発達に資するため」とは、理念としては悪くはありません。お金が有り余っているのなら大盤振る舞いもいいかもしれませんが、世界的大不況の中、また国の財政も逼迫している中、5兆円もの大金の単なるばら撒きなど、言語道断です。この分野に5兆円をつぎ込む覚悟なら、この際、本気で少子高齢化社会の問題に取り組むことを明言し、少子化対策、出生率向上のための具体的政策として立ち上げるべきです。


目的を明確に、有効な制度を
第二点目は、もし本当に「次代の社会を担う子供の成長及び発達に資する」ために何かしたいのだったら、手当ての配り方を工夫し、それと同時にお金では解決できない様々な育児環境や教育環境を取り巻く現状の問題点を解決するための政策を実行すべきです。そのことなくして、子供のために使われるとは限らないお金を一律に配っても、子供のためにもならず、少子化に歯止めはかからず、税金を無駄にするだけです。

年間5兆円という国家予算を支出するのです。子育て支援(金銭的、制度改正、環境改善など)により少子化に歯止めをかけ、将来の日本を担っていく世代を育成するという明確な目的を設定すべきです。そのために、どのような子育て支援が出生率の向上に効果的か、またどれほどの投資額が出生率の向上に繋がるか、因果関係を詳しく示す必要があると思います。

日本は、何でも新しい制度を導入するときに、他の先進国の制度をマネする傾向があります。今回の子ども手当ても、欧州各国の制度、特に出生率の向上に成功しているスウェーデンやフランスの制度の一部を見習ったものと思われます。

児童手当や保育への補助など、子育てに関連の総給付費の国内総生産(GDP)に対する割合を国別に見てみます。日本の現在の給付レベルは、欧州各国と比較して極めて乏しく、スウェーデン2.9%、フランス2.8%、イギリス2.2%に対し、日本はわずか0.6%です(内閣府報告書「社会全体の子育て費用に関する調査研究」平成17年)。例えばフランスでは、第一子には手当はなく、第二子には約1.5万円、第三子以降一人2万円(所得制限なし)と、インセンティブが儲けられています。また、家族手当として3人以上の子供を持つ家庭に、3人目以降一人2万円(約350万円の所得制限付き)が支給され、子供の多い家庭により手厚い支援がいくようになっています。さらに、年齢別加算があったり、障害の有無、片親の場合、など実にきめ細かく対応しています。その結果、1994年に1.65だった出生率は回復し、2005年に欧州では最高の1.94を記録しました。

もし、日本の月額2万6千円の子ども手当てが創設されれば、単一の手当ての金額としては、各国に勝るとも劣らない規模のものとなります。しかし、月額2万6千円をもらうことによって、安心して出産し、一人だけでなく第2子、第3子を儲けるようになるのでしょうか。答えはノーでしょう。先ず、第一子にも、第二子以降にも一律に支給するのでは、より多く産むインセンティブがなく、政策として極めて大雑把で稚拙だと感じます。また、繰り返しになりますが、子ども手当てのような制度は、育児・労働環境を取り巻く他の様々な状況(保育所、労働時間、不妊症の問題など)改善の取り組みや制度とセットになって初めて効果のあるものです。

例えば、フランスでは男女とも週35時間労働という日本では考えられない労働環境です。その他、男性の育児参加、託児所などの育児サービス、出産後の女性の就業率(約80%)など、大きな相違点があります。異なる国のシステムの一部だけ日本にとってつけても、同じように機能するわけはないのです。

本当に必要なのは、以下に並べた出産・育児への壁となっている様々な現状の改善です。働く女性、これから子育てをしたいと考える女性にとって切実な問題です。これらはお金だけでは解決できない問題です。

• 保育所が見つからない
• 職場復帰しても、現在の業務内容(残業が多いなど)では、育児との両立ができない
• 夫も仕事で忙しく、育児への協力が得られない
• 男性の育児休暇制度が徹底していない
• いったん止めてしまうと、職場復帰は難しく、パートなどの仕事しか選択肢がなくなる
• 子供を産みたくても不妊症のため産めない
• 不妊治療に保険が適応されない

高福祉・高負担への意識改革
第三に、財源の問題です。私は、少子高齢化社会を支えていくためには、有権者の財源に関する大胆な意識改革も必要だと思います。この問題こそ、欧州各国を見習った方がいいかもしれません。高福祉国では、国民所得に占める社会保障と税負担の割合(国民負担率)は、日本の比ではないのです。その割合は、日本では39%であるのに対し、フランス62%、スウェーデン66%と大きな差があります。財源が大きければそれだけ手厚い手当やサービスも可能に決まっています。

基本的に、「高負担・高福祉国」か「低負担・低福祉」か、二つに一つなのです。政治家は、支持率の低下を恐れて、増税をなかなか口にしようとしません。有権者も、負担は現状維持のままで高福祉だけ手に入れたいなどというのは虫がいい話です。この大前提が曖昧なままであることが、そもそも問題ではないでしょうか。

さて、子ども手当ての財源として税制改正大綱に示されたのが、子ども手当てと高校無償化の対象世帯に対し、所得税と住民税の扶養控除の一部を廃止するというものです。

当初は、民主党マニュフェストによると、「子供手当の導入」と「配偶者控除および扶養控除の廃止」がセットで施行されるということでした。この場合、恩恵を受ける側と損をする側で、かなりの差が出てくる計算でした。例えば、年収700万のサラリーマン家庭で、妻が専業主婦で中学生が二人の場合、配偶者控除と扶養控除の合計は114万円。これがなくなった場合の増税は16.4万円。子供手当てが2万6千円x12ヶ月x2人で62.4万なので、差し引き46万円の手取り増です。それに比して、妻が専業主婦で子供がいない世帯の場合、38万円の配偶者控除が無くなり、増税となる一方で、手当てによる収入増はありませんから、一番損を被ることになります。

これは言い換えれば、子供のいない人から子供のいる人への所得の転嫁、さらに高額所得者から低額所得者への所得の転嫁を図る政策ということです。その根底にあるのは「社会全体で子供を育てる」という考え方です。これから迎える少子高齢社会を乗り切れるかどうかは若い世代にかかっていますし、誰もが直接・間接に他人の子供の世話になるのですから、当然の考え方だと思います。

ただし、社会にあまり不平等感をもたらす制度は問題です。また、制度がもたらす損得勘定が個人の産む産まないの自由を左右したり、さらに言えば国が個人の生き方に干渉するような体制は避けなければならず、その線引きは微妙なところです。

結局、当初の民主党案にあった配偶者控除の廃止は見送られることになりました。扶養控除の一部廃止は、子ども手当てと高校無償化の対象世帯に限定するようです。所得税の扶養控除だけでなく、住民税の扶養控除を廃止するという部分も新たに付け加えられました。16歳未満の子供を持つ家族では、一人につき71万円の扶養控除(38万円の所得税控除、33万円の住民税控除)が廃止されます。要するに、不平等感を和らげ、恩恵を受ける側と損をする側の差をなるべく小さく収めようとした結果かもしれません。しかし、結果的に、これだけでは子ども手当てを賄うのにはとても足りません。

やはり、新たな財源、つまり近い将来増税が不可欠になってくるでしょう。今必要なことは、「国全体の将来のために、社会全体で子供を育てていなかなければならない」「その制度の拡充のためには、国民一人一人が今以上の負担を覚悟しなければならない」という意識を社会全体に育てることです。政治家は、そのことを訴えていく必要があります。目的の曖昧な子ども手当てのばらまきは止めるべきです。少子高齢化社会に対応するという、明確な目的に沿って、税の徴収の仕方や手当ての配分の仕方を工夫し、所得制限も設け、きめ細かい制度に練り直すべきです。そして、5兆円、或いはいくらになるかはわかりませんが、それだけの投資が、将来の日本にとって益となるような制度を構築するべきだと思います。


posted by Oceanlove at 04:26| Comment(0) | 日本の政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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