2010年03月01日

子育てに必要な十分条件 その(1) 父親が育児をシェアすること

前回、アメリカでは公的な子育て支援、つまり「必要条件」がないにもかかわらず、子育てへの悲観論といったものは感じられず、多くの女性たちがパワフルで生き生きと子育てをしていて、その背景には、きっと「十分条件」とも言える何かがあるのだろうと書きました。今回は、その「十分条件」として考えられることを以下の三つにまとめてみました。

十分条件その(1)父親が育児をシェアすること
十分条件その(2)相互扶助のパワーと育児支援のネットワーク
十分条件その(3)キャリアウーマンの子育て回帰現象とワーク・ライフ・バランス

十分条件その(1) 父親が育児をシェアすること

労働時間とキリスト教の家族観
まず、考えられるのが、父親がより多くの時間子育てに関わっていることです。国立女性教育会館の「家庭教育に関する国際比較調査報告書」(平成16年・17年)によると、父親が子供と一緒に過ごす時間は、アメリカ4.6時間に対して日本は3.08時間と開きがあります。ついでに、子育ての役割分担(しつけ)を見てみると、アメリカでは「両親共同でする」が54.5%、「主に母親がする」は28.9%、「主に父親がする」は11.8%です。それに対して日本では、「両親共同でする」は49.2%、「主に母親がする」は43.4%、「主に父親がする」は4.2%となっています。日本では、しつけなどの子育ての役割分担も、母親の方により大きな負担がかかっているようです。(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/07020115/004.htm

どの国の父親であろうと、子供と共に過ごす時間をより多く持ちたいのは山々でしょう。しかし、それが出来るか出来ないかには、それぞれの国の社会事情や労働環境によります。日本人の長時間労働の現状はよく知られていますが、週に49時間以上働いている日本人男性の割合は43%にもなります。これに対し、アメリカでは75%の男性の労働時間は週44時間以内、50時間以上働く男性は17%に過ぎません。
(男女別労働時間国際比較より http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3132.html

アメリカ人の労働時間が日本人ほど長くない理由の一つは、なんと言っても、キリスト教の教えが反映された社会モラルや家族観が、広く社会に行き渡っていることにあると言えるでしょう。毎週日曜に教会に行くか否か、どれだけ熱心に信仰しているかは人それぞれでも、大雑把に言って、人口の半数がプロテスタント、カトリック、ユダヤ教を含むキリスト教徒です。キリスト教の影響力は絶大で、それ抜きにはアメリカ社会を語ることはできません。

伝統的キリスト教的家族観のもとでは、家族の絆に大きな価値が置かれ、仕事や他のことにために、家族との時間を犠牲にすることを決して善しとしません。そのため、大前提として、仕事と仕事以外の時間はきっちり分けられ、勤務時間以外は職場の同僚や仕事上の付き合いよりも、家族と共に過ごすことが尊重されるという、社会全体の大きなルールが存在するのです。日本ではおなじみの、上司が帰るまで帰れないとか、付き合いで飲みに行くとか、残業で毎日のように深夜に帰宅するとかいう話は、アメリカではほとんど聞くことはありません。

ワーク・ライフ・バランスの推進
また、アメリカでは、1990年代頃から、仕事と仕事以外の生活のバランス(ワーク・ライフ・バランス)のよりよいライフスタイルを実現するための、様々な雇用形態のあり方が広まってきました。これは、1970年代・80年代、女性たちが社会進出を果たしてきたことが背景にあるのですが、仕事と家庭を両立させたい女性のみならず、子育てにもっと関わりたち父親たちからも、柔軟な勤務形態のあり方が望まれてきたのです。

従業員のワーク・ライフ・バランスを尊重した企業の前向きな努力としては、Flexible Work Arrangement (以下、フレックス制と呼びます)の導入が挙げられます。フレックス制の下で、出勤・退社時間が調整できる、勤務時間を短縮(それに応じて給料は削減)できる、子供をもつ従業員への手当てを出すなど、子育て中の親たちにとって働きやすい環境が整備されつつあります。

アメリカ労働省統計局の調査によると、何らかのフレックス制を利用している正規雇用労働者の割合は、1985年には12.4%だったのが、2004年には全体の27.5%まで増加しています。管理職に限ると36.8%という高い割合で利用し、職種別では、IT関連(52.4%)、社会福祉関連(46.1%)、法律(44.5%)、エンジニア(43.6%)、金融関係(42.3%)、販売(38.1%)などとなっています。専門性の高い職業についている人ほど、フレックス制を利用できる傾向があるようです。(http://www.bls.gov/news.release/flex.toc.htm

ワーク・ライフ・バランスの奨励は、法律によって義務化されているものではありません。あくまで企業努力というが現状ですが、企業にとっても、ワーク・ライフ・バランスを奨励するプログラムを導入することは、優秀で意欲的な人材の雇用を安定的に確保し、業務効率の向上を図ることができる点で有意義な制度だと考えらるようになってきています。

子育てに関わる父親たち
このように、家庭が尊重される社会システムの中で、父親たちは、基本的には5時きっかりに仕事を終えて、まっすぐ家に帰り、家族と一緒に食事をするのがごく当たり前です。顧客の接待や残業もたまにはあるでしょうけれど、連日のようにあるわけではなく習慣化もしていません。接待などで遅くなったり商談をかねて休日にゴルフをしたりするのは、よほど地位の高い会社の幹部レベルの人たちでしょう。普通のセールスマンやエンジニアが同僚と飲み歩くということは先ずありません。

私の周りのアメリカ人の父親たちを見てみても、平日の夕方から夜にかけて、週末は決まって家族と過ごし、仕事以外のことにもたくさんの熱意を注いでいるように感じられます。そして、赤ちゃんの世話をしたり、子供を習い事に送り迎えしたり、野球やバスケットボールのコーチをしたり、運動不足解消のためにジムに通ったり、キリスト教徒の人たちは毎週日曜日には家族揃って礼拝に出かけたり、より多く家族との団欒の時を過ごしたりするのです。育児サポートというより、男性も共同で育児をするということなのです。また、家にいる時間が長ければ、育児のみならず家事も自然と分担して行う状況となります。「仕事が忙しいから」というのは、家事や育児を分担しないことの言い訳にはなりません。

父親が育児をシェアすることによって、母親に肉体的・時間的・精神的ゆとりが生まれます。これはものすごく重要です。この観点から見ると、父親が仕事に長時間拘束される日本社会は本当に不幸です。父親の帰宅が遅いために、平日は父親と子供が顔を合わせることがないのも当たり前、といった状況の中では、24時間365日、休みのない子育てを一手に背負う母親が育児ストレスに陥るのも当然です。また、そんない父親不在の家庭環境や育児環境が子供にとっていい影響を及ぼすはずがありません。

次回、
子育てに必要な十分条件 その(2)相互扶助のパワーと育児支援のネットワーク
に続く・・・


posted by Oceanlove at 05:21| 日本の政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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