2010年03月02日

子育てに必要な十分条件 その(2) 相互扶助のパワーと子育て支援

次に注目したいのは、アメリカでは相互扶助活動、つまりボランティア活動が非常に盛んなことと、ボランティアで支えられる子育て支援ネットワークが広く行き渡っていることです。

ボランティア活動に費やす時間
「ボランティア活動時間の国際比較」によると、一日当たりの平均活動時間は、日本では男女共に4分ですが、アメリカでは男性19分、女性22分となっています。一週間あたりにすると日本人は28分、アメリカ人は140分も費やしています。また、少なくとも一つの非営利団体(社会福祉団体、教育団体、宗教団体、スポーツ・レクリエーション団体等、各種ボランティア団体)で無償で働いている人の比率を国際比較すると、アメリカでは65%に対して、日本では16%というデータもあります。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3005.html)(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3003.html

もう少し詳しく見てみましょう。2009年のアメリカ労働省統計局の調査によると、ボランティアをしている人の人口比は全体で26.8%と人口の4分の1以上が参加しています。年齢別では、35〜45歳が31.5%と最大で、45〜55歳が30.8%と続きます。また、雇用別では、フルタイムで働いている人では28.7%、パートタイムで働いている人では33.7%、失業中の人では22.9%となっており、働き盛りで子育てにも忙しい年齢層におけるボランティア活動が盛んなことがわかります。また教育のレベル別では、大学卒業者が42.5%、高卒者では18.8%と、学歴の高い人ほど参加率が高くなっています。

また、アメリカ人がどのようなボランティア活動に携わっているかを分野別に見てみると、宗教関係が34.0%と最大で、以下教育・青少年関係(26.1%)、社会福祉・コミュニティー関係(13.9%)、医療・介護関係(8.5%)となっています。キリスト教などの教会主宰の活動および学校や子育てに関わるボランティアが圧倒的に多いことがわかります。私の周りでも、親たちが、子供の通う学校、地域コミュニティー、教会などを通じた様々なボランティアに積極的に活動する姿を毎日のように目の当たりにしています。私もその一員として加わりながら、ボランティアの生み出すパワーを実感しています。

こういったボランティア活動の風土は、やはり宗教信仰に基づいた助け合いの精神から生まれており、何も特別なことではなく、日常的に行うことが当たり前といった感覚なのです。地域の人々が、「お互いに助けあい協力し合って暮らしをよくしていこう」「支援を必要とする人々に手を差し伸べていこう」という相互扶助の精神は、日常の様々な形で現れています。ここでは、乳幼児期から学童期の子育てに関わる二つのボランティアを紹介しましょう。

母親たちによる相互扶助ネットワーク
一つ目は、母親と乳幼児のための相互扶助ネットワークです。これはわかりやすく言えば、育児サークルのようなものですが、母親が乳幼児と共に参加し、子育てに関わる様々な活動や情報交換を行っています。

例えば、私が参加していたMom’s Clubという団体では、週に3回の集まりがあり、都合のいい曜日に参加することが出来ました。活動内容は、「絵本の読み聞かせ」「歌やダンスなどの情操教育」「公園で遊ぶ」「季節の行事」など、様々です。月に一度、子供を父親に任せて母親だけでレストランディナーに出かけたり、外部から講師を招いて育児に関する講座を開く企画もありました。また、互いにベビーシッターをし合ったり、出産直後のメンバーの自宅に交代で夕食を届けたりといった、まさに助け合いそのものです。

このような育児サークルは、地域のNPO主催であれ、キリスト教会が主催であれ、自分から進んで参加する意思さえあれば、誰でも気軽に参加することができ、活動内容も母親たちの話し合いで決められます。しかも、すべてボランティアで賄われているので、僅かな年会費以外はすべて無料です。全てが母親の母親による母親のためのボランティア活動なのです。

Mom’s Clubでの活動は、私にとって、自宅に閉じこもることなく親子で外出する機会となるばかりでなく、子育ての悩みを話し合ったり、互いに助け合い、励まし合う最適の場所でした。24時間途切れなく子供と過ごす母親にとって、こういった活動の場が近くにあることは、何よりの精神的な支えとなると思うのです。日本でも、自治体の育児支援や母親サークルなどが盛んになってきているとは思いますが、このような活動が広く社会に行き渡ることは、よりよい子育てのための環境に絶対に欠かせないと思います。このような育児環境からは、孤独な母親の育児ストレスとか、幼児虐待とか子育てに関わるネガティブな問題は生まれにくいのではないでしょうか。

学校現場でのボランティア
もう一つは、どの親でも多かれ少なかれ参加する、キンダー(幼稚園の年長期にあたる)や小学校でのボランティア活動です。日本では、授業参観と運動会などの行事以外では親が学校に行くことはあまりなく、PTAなどの役員でもしていなければ、直接関わることはあまりないと思います。アメリカでは、大きな行事やPTAの活動ももちろん盛んですが、特徴的なのは、日常的に教室に親が入り(基本的に自分の子供のいる教室)、先生のアシスタントとして仕事を手伝うということです。特に子供が幼稚園や小学校の低学年のうちは先生の側のニーズも多く、親たちも自分の子供が教室でどんな風に過ごしているか様子を見ることが出来るので、とても人気があるボランティアです。

手伝う内容は、先生によっても様々です。低学年では、グループで算数の数の遊び一緒にしたり、工作で画用紙の切り抜きをしたり、子供たちの宿題を確認して記録するような仕事もあります。学年があがってくると、読書の時間にグループの輪に入って一緒に音読したり、掛け算割り算などのプリントを使って計算をさせることもあります。

その他、教室以外でも、図書館での仕事、休み時間に運動場で子供の安全を監視する仕事、クラブ活動の指導補助、寄付金集めの活動など、学校教育の様々な面においてボランティア活動の場が開かれています。逆に言うと、教育現場がボランティアの親たちの手で支えられている、教育の予算不足で音楽の授業やクラブ活動が削られたりしているために、親のボランティアなしには充実した教育が成り立っていないという現実があり、これはアメリカの公教育の問題点でもあります。

この考察はまた別の機会にしたいと思いますが、教育の現場で起きていることのポジティブな面を見てみると、こういった親たちの活動は、自分の子供のためだけでなく、同じクラスにいる子供たちの学力向上、学校全体の利益、ひいては学校全体の教育の質の向上に繋がっているということです。こうした熱意ある親たちのボランティア活動が盛んな学校ほど、州ごとに行われる標準テストの成績がよいなど、子供たちの学力にも反映されています。

確かに、公教育はどの子供にも平等に与えられなければなりません。親の学歴や熱意や財力といったものの影響で学校間格差が生まれることは好ましいことではなく、長らく批判の対象になってきました。ただ、強調したいのは、人々は教育の問題について、政府や州、学校を批判するに留まってはいないということです。いくら政治家が教育の充実を叫んでも、情況がすぐ好転するはずもなく、こうしている間にも、満足な教育が受けられず、落ちこぼれていく子供たちが大勢いるわけです。だから、その子達のために、自分たちで今出来ることをする、ボランティアで時間を費やす、アイデアを出し合う、出来る範囲で寄付などの金銭的支援もする、そういったことを惜しまないということです。要するに、これも相互扶助のパワーだと思うのです。

社会を活性化させる相互扶助パワー
アメリカはあくまでも、自由と自己責任と相互扶助の国であり、福祉の国ではないのだということを実感します。元に戻りますが、子育て中の親たちは多くの時間を無償で子供たちや地域や学校のために費やしています。子育てに専念している母親のみならず、フルタイムで働いている母親たちも、そしてもちろん父親も、5時きっかりに仕事を切り上げて、子供のクラブ活動の支援をしたり、日曜日に教会でボランティアをしたりしています。その規模や社会への浸透度において、アメリカはやはり凄いと言わざるを得ません。

繰り返しになりますが、この完全ボランティアの母親や父親たちの生み出す相互扶助のパワーが、公的な子育て支援の欠如や、予算不足で満足な教育が施されていないといった行政問題、つまり「子育てに必要な必要条件」の欠如を補っているのです。そしてそのパワーが、自分の子供や家庭にとっての利益のみならず、地域全体の潤滑油となり、社会を活性化させ、満足とはいかずとも、「子育てに必要な十分条件」とも言える環境を作り出しているのです。

次回、
子育てに必要な十分条件 その(3)キャリアウーマンの子育て回帰現象とワーク・ライフ・バランス
に続く・・・


posted by Oceanlove at 15:50| 日本の政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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