2012年11月02日

アメリカ大統領選における非民主的システムと不公正さと・・・ そして見えてきた希望の光

アメリカ大統領選挙が目前に迫りました。

今回の記事は、大統領選挙に関わる内容ですが、オバマ、ロムニー両候補の選挙戦についてでも、彼らの政策についてでもありません。それらについては、日本のマスコミ報道でもある程度伝えられているので、今さら書くまでもないでしょう。私が書きたいのは、日本のマスコミはもちろん、アメリカの主要メディアでもほとんど取り上げられていない民主主義の根本に関わる問題、「アメリカ大統領選挙の非民主的システムと不公正さについて」です。

私はアメリカに居住を始めて13年になります。アメリカ市民ではないので、選挙権はないものの、大学院で政治学を専攻していた2000年から、4年毎の大統領選挙の模様をじっくり観察し、肌で感じながら、アメリカ政治の理解と分析に努めてきました。私が観察する4回目の選挙となる今回、最も実感していること、それが、一見公明正大に行われているように見える大統領選が、実はいかに不公正で非民主的であるかということです。

そのことをブログでぜひ伝えなければならないと感じ、選挙直前のタイミングとなってしまいましたが、この記事を書き始めました。以下の三つに焦点を当てて分析をしていきます。

1)    二大政党による独占的選挙システムと第三政党
2)    選挙人制度とマジックナンバー270
3)    大統領選テレビ討論会の実態

今回の記事は、選挙を通してアメリカ政治に存在する不公正や民主主義の欠陥をえぐり出す作業であり、それ自体は楽しい作業ではなかったのですが、結論から言えば、この記事を書くためにリサーチをしているうちに、私にはある希望の光が見えてきました。それを最後に記しましたが、ぜひ、皆さんにも知っていただきたいことです。長い記事になりますが、最後までお付き合い下さい。

その(1) 二大政党による独占的選挙システムと第三政党

アートオバマとロムニー以外の大統領候補者

アメリカ大統領選の選挙戦といえば、もっぱら二大政党である民主党と共和党の候補者の対決として報道されます。今回は、現職バラク・オバマ大統領とミット・ロムニー候補、そしてそのランニングメイトであるジョー・バイデン副大統領とポール・ライアン候補です。しかし、2012年の大統領選挙には、いわゆる第三政党(民主・共和党以外の党の俗称)からの候補者やいずれの党にも属さない無党派の候補者が大勢いることをご存知でしょうか?

実は、以下に列記した18の党からの候補者(18名)と、無党派の候補者(5名)を合わせて、23名が立候補しています。党に所属する候補者は各党の予備選で選出され、無党派の候補者は連邦選挙委員会に届出を出すなどし、何れも大統領選挙への立候補を正式に表明した候補者です。

 Libertarian Party, Green Party, Constitution Party, Justice Party, Party for Socialism and Liberation, American Independent Party, Peace and Freedom Party, Reform Party USA, America’s Party,  Objectivist Party,  Socialist Workers Party, Socialist Party USA, American Third Position Party, Grassroots Party, Socialist Equality Party,  Freedom Socialist Party, Modern Whig Party, Prohibition Party

アメリカには、民主党と共和党以外にもこんなにたくさん党があったのかと、そして、こんなに大勢立候補していたのか、と驚いた方もいるのではないでしょうか。

アメリカでは、個人が選挙を通じて政治的考えを表現する自由は、言論の自由などとともに、合衆国憲法修正第一条により、全ての国民に保障されています。これには、投票する権利、国政および地方選挙に立候補する権利、政党を結成する権利、他の大政党と同等の待遇を受ける権利などが含まれます。そして、大統領の被選挙権は、35歳以上であること、合衆国市民であること、14年以上合衆国内に住んでいること、が憲法上の要件です。

ですから、大統領候補が民主党と共和党の2党の候補者しかいないというのはむしろ不自然で、上記のような様々な党から大統領選に出馬する候補者がいて当然なのです。

しかし、現実には二大政党に圧倒的に有利な独占的選挙システムにより、上記の23名の無党派の候補者や第三政党の候補者たちの権利は不当に踏みにじられています。彼らが選挙を通じて政治的考えを表現する自由と機会は奪われ、有権者たちには23名の候補者の名前はおろか、立候補していることすら知られていない状況です。今回の選挙のみならず、アメリカ大統領選挙では毎回このような事態が生じています。

無党派や第三政党の候補者の苦戦の理由はいろいろ考えられます。第三政党は知名度が格段に低いこと、規模が小さく資金力が乏しいのでテレビキャンペーンを張ることが困難であること、新聞や主要テレビ局に軽視され取り上げられないため有権者に情報が届かないこと、などが挙げられるでしょう。

しかし、それらは、どの国の選挙であっても、小政党が抱える困難であり、勢力を拡大するためには何とかして乗り越えていかなければならない試練でしょう。

それ以前の問題として、アメリカ大統領選挙に特徴的なのは、第三政党を不利な立場におとしめている不公正な選挙制度です。その制度のために、多くの州では上記の23名の候補者のうち、実際の投票用紙に候補者として名前が記載されるのはたった4名か、それ以下にすぎません。いったいどういうことでしょうか?

アート立ちはだかる「候補者アクセス」の壁

アメリカの国政選挙において、候補者が立候補の条件を満たし、候補者として正式に認められ、投票用紙に候補者として氏名が記載されることを、「候補者アクセス(Ballot Access)」と呼びます。候補者アクセスを得る要件は各州の法律で定められています。要件の主なものは、一定数の有権者の請願署名や、過去の選挙におけるその党の得票の割合などで、州によりその規定は様々です。候補者たちは、定められた要件を満たし候補者アクセスを得なければ、正式に候補者としては認められず、投票用紙に候補者名が記載されない仕組みになっています。(Wikipedia: Ballot Accessより) 

例えば、アリゾナ州の規定によれば、大統領選挙の候補者が候補者アクセスを得るためには、まず登録有権者2万人分の署名を集めなければなりません。そして、候補者アクセスを維持するためには、実際の選挙で少なくとも5%の得票数を得るか、もしくは、その党への登録有権者数が全有権者の少なくとも1%をあることが要求されます。

いうまでもなく、民主党と共和党は実際の選挙で常に5%以上の得票数を得ていますから、候補者アクセスは毎回自動的に与えられます。しかし、5%の得票に満たない第三政党は、全有権者の1%以上の数の自党への登録者を集めなければなりません。アリゾナ州の登録有権者数は約310万人ですから、3万1000人です。それができなければ2年ごとに2万人分の署名を集めなければなりません。

アリゾナ州では、民主党と共和党以外では、先に述べた18の第三政党のうち、リバタリアンパーティー、グリーンパーティーなど4党が要件を満たし、候補者アクセスを得ています。しかし、その他の党の候補者と無党派の候補者は、要件を満たすことができず候補者アクセスがありません。したがって、投票用紙に候補者として名前が記載されないのです。

また、例えばカリフォルニア州における候補者アクセスの要件は、前回の選挙における党の得票数が全体の2%以上であること、もしくは前回の大統領選挙における全投票数の1%以上の数の有権者による、その党への支持署名を提出すること、と定められています。

カリフォルニアの全有権者数はおよそ2,370万人で、そのうち実際に投票するのは72.3%の登録有権者1720万人です。実際の選挙で、第三政党が全体の2%にあたる34万4000票以上を得票できれば、次回の選挙ではその党に候補者アクセスが認められます。得票数がそれを下回れば、全体の1%にあたる17万2,000以上という数の署名を集めなければなりません。

必要な署名の数は州によって異なり、少ない州ではミネソタ州2千人やケンタッキー州の5千人などから、多い州ではノースカロライナ州4万3600人、メリーランド州6万9500人と大きなばらつきがあります。カリフォルニア州は署名の要求数が最大の州です。(Presidential Ballot Access Requirement for Independent Candidate

このような候補者アクセスの要件の規定は、選挙への立候補に高いハードルを設け、候補者の乱立や冷やかし半分の立候補の出現を防ぐ意図があると考えられています。確かにある程度のレベルのハードルは必要でしょう。しかし、小規模な第三政党や無党派の立候補者にとっては、まずはこの何千、何万人分の登録署名を集めることが大きな関門となります。それだけの署名を集めるためには、大変な時間と人手と資金が必要です。さらには、実際の選挙で、民主党と共和党に食い込んで、州全体の数パーセントを得票し実績として残さなければ、次回の選挙でも署名集めからやり直さなければなりません。

しかも、候補者アクセスはあくまでも州ごとに認められるので、全米で候補者アクセスを獲得するためには、50州全州においてそれぞれの要件を満たさなければなりません。仮にある第三政党の立候補者が、署名の収集により全ての州で候補者アクセスを獲得しようとしたら、全米でおよそ67万5,000人分という膨大な数の署名を集めることが要求されるのです。

アート候補者、有権者どちらにも不公正な「候補者アクセス」規定

2012年の大統領選挙において、先に記した23名の無党派または第三政党の候補者たちの中には、全50州での候補者アクセスがある候補は誰もいません。最大の候補者アクセスがあるのは、リバタリアンパーティーの候補者ゲイリー・ジョンソンの48州です。二番目に多いのが、グリーンパーティーのジル・スタインで47州、続いてコンスティテューションパーティーのバーギル・グッドが42州、ジャスティスパーティーのロッキー・アンダーソンが36州となっています。

他の19名の候補者は、多くの州で候補者アクセスを獲得することができず、それらの州では投票用紙に候補者として名前が記載されません。つまり、候補者と見なされないということなのです。

この候補者アクセスの既定の下では、知名度の低い人物が候補者になることや新党を立ち上げて候補者を擁立するというようなことは、ほぼ不可能といっていいでしょう。「当選することがほぼ不可能」なら話は分かりますが、「立候補すること自体がほぼ不可能」なのです。つまり、アメリカの大統領選挙制度は、州ごとに異なる「候補者アクセス」の要件という、第三政党に一方的に不利となる法的手続きを組み込むことにより第三政党や無党派の候補者による出馬の道を阻む、二大政党による独占的選挙システムです。「候補者アクセス」の規定は、第三政党を事実上選挙のシステムから排除する不公正な制度なのです。

この規定は、候補者のみならず、有権者にとっても同様に不公正な制度です。なぜなら、自分の住んでいる州により、大統領候補者の顔ぶれが異なり、選択肢が狭められるという大きな不公正を生むからです。

例えば、ある有権者がコロラド州かニューメキシコ州に住んでいるとしましょう。仮に今回の選挙では、民主党にも共和党にも投票したくないという場合、他の選択肢としてコンスティテューションパーティーのバーギル・グッドや、リバタリアンパーティーのゲイリー・ジョンソンなどに投票することができます。しかし、隣のオクラホマ州に住んでいる有権者にはその選択肢がありません。なぜなら、オクラホマ州ではこれら第三政党の候補者は候補者アクセスがなく、名前は投票用紙に記載されていないからです。

このように、州によって有権者に与えられる選択肢の格差は大きく、ジョージア州は、1912年以来、二大政党以外の候補者の名前が投票用紙に載ったことがないという、最も閉ざされた州のひとつです。一方、候補者アクセスの要件が緩和なことで知られるコロラド州では、すでに5つの政党(二大政党と3つの第三政党)の候補者がアクセスを得ていますが、さらに小規模の第三政党の候補者も、出馬の意思表明書を提出し、500ドルを州に支払うことで投票用紙に名を連ねることができます。コロラド州では2008年の選挙に続き、二大政党・第三政党・無党派合わせて計16名(アメリカ選挙史上最多)の候補者名が記載されることになります。(Ballot Access News

民主主義の根幹である大統領選挙で、全米の全ての有権者に、平等に候補者の選択肢が与えられていないという、不公正がまかり通っているのです。これはまさに、アメリカの民主主義に巣食っている致命的な欠陥といえるのではないでしょうか。

このような不平等な状況に対し、かつてリバタリンパーティーから大統領選に出馬したロン・ポール連邦下院議員は、現行の規定が、「候補者たちが様々な政策を自由に有権者に訴える機会を著しく奪っている」とし、候補者アクセスの規定の廃止・改善を訴えました。そして、州ごとに要件が異なり、無党派や第三政党および有権者にとって不平等な規定を廃止し、全国一律な公正な基準を設けることを盛り込んだ法案「Voter Freedom Act」を提出しましたが、法制化には至らず、改善されないまま現在に至っています。

かつて共和党に属し、現在はコンスティテューションパーティーの副大統領候補のジム・クライマーは、「選挙は、自由で公平でなければならない。しかし、投票用紙に名前を載せるのにこれほどたくさんのハードルを越えなければならないシステムは自由でも公平もない」と訴えています。

そして、「もし、共和党に留まっていたら、いずれかの選挙で当選し、世に言う“成功”をしていたかもしれない。だが、それは、私が自分の信念を捨て去り、不公正な問題に加担することでしかない」「私の活動は、後世に続くものたちのための基盤づくりだ」と語っています。(For third-party candidates, playing field is uneven by state)
 
その(2) 選挙人制度とマジックナンバー270

さてここで、無党派・第三政党からの候補者23名のうち、多くの州で候補者アクセスを獲得し、二大政党制への挑戦を果敢に続け、全米でも支持が拡大し認知度が高まっている、4名の候補者に注目してみたいと思います。(名前をクリックすると、各候補のホームページへ)

・ゲイリー・ジョンソン/リバタリアンパーティー (Libertarian PartyGary Johnson)
・ジル・スタイン/グリーンパーティー (Green PartyJill Stein)
・バージル・グッド/コンスティテューションパーティー (Constitution PartyVirgil Goode 
・ロッキー・アンダーソン/ジャスティスパーティー (Justice PartyRocky Anderson

この4人の候補者に注目したい理由は、ひとつには、この4名は、大統領選挙で当選するために必要な制度上の条件である「選挙人のマジックナンバー270」を獲得する可能性がある、からです。そして、もうひとつは、実際に270以上を獲得することはなくとも、彼らは二大政党から票を奪って様々な影響を与える可能性のある候補者であるからです。これについて説明するためには、まずアメリカ大統領選挙における「選挙人制度」とマジックナンバー270について解説しなければなりません。

アート選挙人制度のしくみ

アメリカの大統領選挙が、「選挙人制度」(Electoral College)と呼ばれる制度で行われることは、ご存知でしょう。一般的には、アメリカ大統領選挙は、有権者が自分の選ぶ候補者に投票する直接選挙だということになっています。しかし、この選挙人制度の下では、一般投票で得票数の多い候補者が大統領に選ばれるとは限りません。一般の得票数で負けても、選挙人の獲得数で勝った候補が大統領に選出される可能性があるのです。

選挙人制度とは、簡単に言うと、「一般投票による得票数が州ごとに集計され、得票数の多かった候補者がその州の選挙人をすべて獲得し、そして、全体でより多くの選挙人を獲得した候補が正式に大統領として選出されるという制度」です。これだけでは分かりにくいと思いますので、この選挙人制度と、選挙の流れについて、もう少し詳しく説明しましょう。

アメリカ大統領選挙の本選は以下のような手順で行われます。

1)まず、大統領選挙の何ヶ月も前、各党は州の党大会などで、その州に割り当てられた数の選挙人を選びます。選挙人というのは、その党の党員で、これまで政党活動を行ってきた人、党への貢献度が大きかった人などを基準に、指名や選挙で選ばれます。ただし、知事など特定の公職についている党員は対象外となります。

各州に割り当てられた選挙人の数は、「その州が選出する連邦上院議員と連邦下院議員の合計と同数」と定められています。つまり、各州の州人口に基づいた人数になっています。たとえば、ニューヨーク州では下院議員29名上院議員2名、合計31名ですから、選挙人も31名です。そこで、ニューヨーク州では、各党がそれぞれ31人ずつの選挙人を選びます。

選挙人の数が最大なのはカリフォルニア州の55人、最小はモンタナ州、アラスカ州などの3人です。州ではない首都ワシントンDCに割り当てられた3人を合わせ、選挙人は全国で538人と決められています。

2)11月の大統領選挙日、有権者による一般投票が行われ、各候補の得票数が州ごとに集計されます。各州で一番得票数の多かった候補者がその州の勝者となります。

3)各州において、勝者の党があらかじめ選んでおいた選挙人全員が、その州を代表して、12月の中旬に行われる選挙人投票を行い、正式に大統領を選出します。このとき、各州の負けた方の党の選挙人たちは出番はありません。この選挙人投票で、全体(538人)の過半数である270名以上を得票した候補が大統領に選出されます。マジックナンバーの270はこれを意味します。

選挙人たちは、もともとそれぞれが所属する党から選ばれているので、自党の候補に投票することが決まっています。その州で勝った党が、その州に割り当てられた数の選挙人をごっそりさらっていくので、勝者総取りと言われます。ただし、選挙人投票はあくまで形式的なものに過ぎません。12月を待つまでもなく、11月の一般投票で、それぞれの州でどの党が勝つかで、各党の選挙人の総合獲得数が決定され、どちらが大統領になるか判明するのです。

アートPopular Vote(一般得票数) とElectoral Vote(選挙人獲得数)

選挙人制度は、憲法で定められた決まりごとであり、毎回選挙はこの制度のもとに粛々と行われてゆきますが、選挙人制度そのものについて疑問を呈する声はあまり聴かれません。ただ、大手のマスメディアが声高に取り上げないというだけのことであって、この制度に対する批判や、改正すべきだという声は常に存在してきました。

選挙人制度の下では、一般投票の得票数(Popular Vote)で負けても、選挙人の獲得数(Electoral Vote)で勝って、大統領に当選する可能性があることはすでに述べました。過去には、第6代ジョン・クインシー・アダムズ、第19代ラザフォード・ヘイズ、第23代ベンジャミン・ハリソン大統領の例があり、そして最も最近では2000年のジョージ・・W・ブッシュ大統領がそうでした。なぜこういうことが起きるのでしょうか?

各州の選挙人の数にはばらつきがあり、勝った方がその州の選挙人を一挙に持ち去るわけですが、例えば、たまたま選挙人の多い大票田の州でA候補が僅差で勝ち、選挙人の少ない他の多くの州ではB 候補が大差で勝ち続けた場合、一般得票数の総計ではB候補が勝っても、選挙人の多い州を制したA候補が当選することがあり得るのです。

アートブッシュ対ゴア事件

民主党のアル・ゴア候補と共和党のジョージ・W・ブッシュ候補が接戦を繰り広げた2000年の大統領選では、一般投票では、ゴアが5099万9897票、ブッシュが5045万6002票と、ゴア候補が勝っていましたが、選挙人投票では、ゴア266票、ブッシュ271票と、わずか5票の差でブッシュが勝ち、大統領に選ばれました。

実は、この選挙では、フロリダ州を除くすべての州の一般投票の結果が出た時点では、選挙人の総獲得数はゴア(266票)に対し、ブッシュ(246票)とゴアが勝っていました。残るは大票田のフロリダのみ。フロリダ州の選挙人は25人ですから、ここで勝てば、ブッシュが逆転勝利をするという事態にアメリカ中が緊迫していました。

ところが、フロリダ州における一般投票の集計に問題が生じ、一部の投票用紙が集計に加えられず、手作業による再集計も中止されるという事態に発展しました。ブッシュ側の不正の疑惑が取りざたされ、ゴア候補への票が正しくカウントされなかったとして訴訟にまで持ち込まれました。結局、州の州務長官はフロリダ州の一般投票ではブッシュが537票差でゴアに勝利したとする最終確定結果を発表し、ゴア候補は敗北を認めるざるを得なかったのでした。

後味の悪い結果となったこの選挙、ブッシュがフロリダの選挙人25人を全て獲得して計271人とし、選挙人の数で勝負をひっくり返して当選したのでした。(ブッシュ対ゴア事件)     

少し話題がそれましたが、この選挙人制度というのは、一人一票を持つ有権者の意志が正確に反映されない制度であるということです。たとえ州の一般投票の結果が51%対49%であっても、51%で勝った党が選挙人を全て獲得し、その州の意思を代表することになります。つまり、その州の49%の有権者の意志はまったく反映されないということになるのです。ですから厳密には、アメリカの大統領選挙は、よく言われているような有権者が大統領を選ぶ直接選挙ではなく、一般投票で選ばれた選挙人が大統領を選ぶ間接選挙ということになります。

アート選挙人270のマジックナンバー

話を少し戻しますが、先ほど挙げた第三政党の4名の候補者は、大統領選挙で当選するために必要な制度上の条件−選挙人のマジックナンバー270−を獲得する可能性がある、と書きました。

ここで、候補者アクセス(Ballot Access)の話を思い出してください。各候補は、候補者アクセスを得ている州でのみ投票用紙に名前が記載され得票数がカウントされる決まりでした。もし、第三政党の候補者が州の得票数で一位になった場合、ルールにのっとり第三政党がその州の選挙人を全て獲得します。その可能性は小さいとしても、ゼロではないわけです。仮に、同様のことが複数の州で起こり、獲得した選挙人の数の合計が270を超えれば、その第三政党の候補者が大統領に当選します。

というわけで、アメリカ大統領選挙において、第三政党の候補者は、候補者アクセスがある州の選挙人の合計数が270を超えた場合、ルール上、初めて意味のある候補者の一人として見なされるわけです。それが、第三政党の候補者の位置づけであり、そのマジックナンバー270を超えているのが、上記の4人なのです。

あらためて、4人の候補者を簡単に紹介しましょう(カッコ内は、候補者アクセスのある州と、選挙人の合計数)。

【ゲイリー・ジョンソン/Libertarian Party(49州515人)】 実業家、前ニュー・メキシコ州知事でリバタリアン主義者。財政的保守主義(政府予算を最小限度に抑える)、外交政策は他国への不干渉主義をとり、また政府は個人に対する干渉をすべきでないとする立場を明確にしている。

【ジル・スタイン/Green Party(47州447人)】 マサチューセッツ州出身の内科医で、大統領候補者中で一番リベラル。再生可能エネルギーや環境問題への取り組みによる雇用増進を軸にした、グリーン・ニューディール政策を掲げ、軍事費の30%削減、海外派兵アメリカ軍の撤退、キャピタルゲインや高額不動産への増税、医療を平等に受ける権利などを訴えている。

【バーギル・グッドConstitution Party(42州369人)】 元バージニア州選出連邦下院議員。どちらかというと保守派。アメリカ国民の雇用を第一とし、労働者としての移民の受け入れ反対を明言(ヒスパニック票を失う恐れから、オバマ、ロムニー共に避けている政策)。

【ロッキー・アンダーソンJustice Party(36州271人)】 元ソルトレイク市長。弁護士として、国内外で環境、反戦、人権問題等に取り組んできた。昨年まで民主党員だったが、ドナー企業の圧力に屈して政策を曲げる民主党に失望し、新党からの出馬となった。

アート“スポイラー(Spoiler)”という第三政党への言いがかり

この4人の候補者たちは、現実的には、オバマ大統領やロムニー候補にとっての脅威とは言えないでしょう。しかし、第三政党は得票率がたとえ全体の数%程度に過ぎなくても、二大政党の一角に食い込み、票を奪うことにより、各州で民主・共和の勝敗を左右する可能性があるという意味で、決して侮れない影響力を持っています。特に、今回の選挙戦のように民主・共和がきわどい接戦を繰り広げている選挙においては、第三政党に流れるたった1%の票が、民主・共和の何れかに致命的な打撃を与える可能性があるのです。

そんな事情から、第三政党は時に、妨害政党(Spoiler)だというような言われ方をされてきました。つまり、勝つ見込みのない第三政党の候補者への投票は無駄票であるばかりか、民主・共和の得票の行方をかく乱し、妨害するという意味です。特に、民主党支持者の中でも左よりの人々はグリーンパーティーに、また共和党支持者の中の右よりの人々はリバタリアンパーティーに傾倒する傾向があることから、民主・共和両党は第三政党の動きを常にけん制しています。

先ほど、2000年の大統領選挙におけるブッシュ・ゴア事件では、民主党のアル・ゴア候補が537票の僅差でジョージ・ブッシュに破れ、後一歩のところで大統領の座を逃したことを取り上げました。このとき、敗れた民主党支持者たちの不満と憤りの矛先がグリーンパーティーに向けられたのは記憶に鮮明です。彼らの言い分は、民主vs共和の接戦州のフロリダで、グリーンパーティーの候補者ラルフ・ネーダーが97,421票(全体の1.6%)と予想外に得票を伸ばしたために、ネーダーがいなければゴアに投じられていたであろう票が失われ、その結果民主は敗北したという理屈です。

2004年の大統領選では、民主支持者たちからネーダーの立候補をなじる声さえあがりました。これに対し、ネーダーは
「有権者が、自分の選んだ候補者に自由に投票することは合衆国憲法に定められた国民の権利だ。私に立候補をするなという民主党は、私に投票しようとする有権者の権利を否定するものである。」という声明を出し、最再度の立候補を決めたのでした。

ちなみに、ラルフ・ネーダーは(私がもっとも尊敬する人物の一人です)、弁護士、政治活動家であり、70年代からアメリカの環境問題や消費者問題、政治の民主化の先頭に立ち続けてきました。非営利団体のPublic Citizenを設立し、連邦政府や業界に対する批評活動を展開。その活動は、市民の意識改革をもたらし、医療・環境・経済など多分野にわたる市民運動を巻き起こし、アメリカ社会に絶大な影響力をもたらしました。1992年に民主、1996年と2000年には緑の党から、2004年と2008年には無党派で大統領選に立候補しました。

2000年の選挙では、全体で288万3105票(2.74%)を獲得しました。目標としていた5%(次回の選挙で公的選挙資金が提供されるレベル)には届きませんでしたが、多くの州において次期選挙におけるグリーンパーティー選出候補者の認定(Ballot Access)を確実のものとしました。アメリカ史上最も偉大な人物のひとりとも評されています。                                                                                                                                                                                                                                                                                       

その(3) 大統領選テレビ討論会の実態

さて、2012年の大統領選挙。第三政党の候補者の苦戦をよそに、大手マスコミが報道してきたのは、もっぱら民主オバマと共和ロムニーの激戦の様子です。9月頃の各種世論調査の支持率では、オバマが10ポイントほどの差をつけてリードしていましたが、10月に入ってからロムニーが勢いを伸ばし、一時逆転。そして、10月後半以降はほぼ互角の支持率で接戦だと報道されています。

この世論調査の支持率に影響を及ぼし、この一ヶ月ほどマスコミを賑わせてきたのが、全米テレビ生中継で行われる大統領選候補者による公開討論会です。討論会は、以下のような日程で行われました。

第一回目:10月3日。大統領候補の一回目の討論。国内政策中心。
第二回目:10月11日。副大統領候補による討論。外交および国内政策。
第三回目:10月16日。大統領候補による2回目の討論。タウンミーティング形式(*)。外交および国内政策。
第四回目:10月22日。大統領候補による3回目の討論。外交政策中心。

*タウンミーティング形式:態度を決めかねている有権者の代表が、両候補に直接質問をする形式

一回90分間、全部で4回の討論会は、全米11の大手テレビ局を通じて生中継され、毎回およそ6000万〜7000万人の人々が視聴したとされています。
大統候補による討論は、討論後の各テレビ局による視聴者調査などで、どちらの候補者が雄弁だったか、どちらの候補の政策や国の将来像に共感が持てるか、どちらの人物がリーダーとしてふさわしいかなど様々な観点から評価され、勝敗が分析されます。討論会の様子は、連日テレビや新聞各紙を賑わし、そちらが優勢だったか、票の行方は、といった評が延々と続くのです。

しかし問題はここからです。この討論会で激論を交わしたのは、オバマ対ロムニー、そして副大統領候補のジョー・バイデン対ポール・ライアンだけです。他の第三政党の候補は参加していません。正確に言えば、参加していない、のではなく、彼らは「招待されなかった」のです。これはいったい、どういうことなのでしょうか?

アートテレビ討論会を主催するCPD(Commission on Presidential Debates)

アメリカ大統領選におけるテレビ討論会というのは、実は連邦選挙法などによって定められた公式な行事ではなく大統領選討論会実行委員会(仮称)、
CPDCommission on Presidential Debatesという民間団体が主催し、大統領候補を招待して開催しているイベントなのです。CPD主催によるこの討論会は1988年より4年ごとに開催され、CPDは討論の司会や広報活動を行ってきました。

大統領選候補者によるテレビ討論会がはじめて行われたのは1960年、ジョン・F・ケネディ大統領とリチャード・ニクソンが対決した選挙です。当時は、アメリカの三大テレビネットワークが共同で主催し、全米のおよそ6600万人がテレビ中継を視聴したといわれています。しかし、テレビ局が討論会のスポンサーとなることには法律上の問題があり、その後3回の大統領選挙ではテレビ討論は行われませんでした。

その後、1976年のジェラルド・フォード対ジミー・カーターの選挙時、League of Women Votersという無党派の非営利団体の主催により、討論会が再開されました。League of Women Votersは、続く80年と84年にも3回連続で主催を行いましたが、1988年の討論会では突然主催を辞退します。

その理由は、当時の大統領候補である共和党のジョージ・ハワード・ブッシュと民主党マイケル・デュカキスの両陣営が、秘密裏に討論会に関する覚書に同意していたことが明らかとなったからでした。覚書には、討論会に参加できる候補者の参加資格、司会や質問をするパネリストの選出、そして演台の高さなど、本来主催者が決定するべき事項が含まれており、それらは決定事項となって主催者側に伝えられたのです。League of Women Votersは「両選挙陣営による要求は、有権者に対する詐欺行為である」として抗議し、討論会の開催を拒否するに至ったのでした。(League refuses to help perpetrate a fraud”

そこに登場したのが、CPDです。実はこのCPDという団体は、表向きは民間の非営利団体、いわゆるNPOですが、その母体となっているのは民主党と共和党の全国委員会で、両党の息のかかった企業や団体がスポンサーとなっています。つまり、実質的に民主・共和両党が運営する団体なのです。CPDの当時の議長は、両党それぞれの全国委員会の委員長だったポール・カークとフランク・ファーレンコフです。取締役会はすべて両党の有力者で占められ、開催日程、場所、ルール、司会者、参加資格などすべてがCPDによって決定されました。

League of Women Votersが主催を拒否した1988年の討論会は、CPDがのっとる形で開催され、それ以来、4年ごとの大統領選討論会はCPDによって開催されてきました。当時、両党の全国委員会は合同会見で、「両党の合同スポンサーにより討論会を開催することは、選挙人によりよい教育と情報機会を提供し、選挙プロセスにおける政党の役割を強化し、そして何よりも討論会をより統一的で恒常的な選挙運動の一部として制度化するという我々政党の責務である」と述べています。(Two Party Debates

要するに、CPDによるテレビ討論会は、民主・共和の両党が、両党による独占的選挙システムを強化する狙いで設けた、両党のためのイベントなのです。二大政党以外の候補者が招かれないのは、そういう理由だからです。

テレビ討論会に招待された唯一の二大政党以外の候補者は、1992年の大統領選挙に立候補し、高い世論支持を得た無党派のロス・ペロー氏です。ペロー氏はこの年の選挙で、一般得票で19%という驚異的支持を集めました。しかし、次の1996年の選挙では、「ペロー氏には現実的に当選する見込みがない」というCPDによる一方的な判断により、討論会への参加が認められませんでした。ペロー氏は、「憲法上の権利の侵害である」として、裁判に持ち込みましたが、不服は認められませんでした。

この一件で世論の批判を浴びたCPDは、この後の2000年、討論会への参加資格の客観的基準として、「全国世論調査で15%の支持がある」というルールを設定しました。第三政党にとって15%の世論支持を得ることはほぼ不可能であることから、このルールにより、第3政党からの候補者は、討論会から一方的に排除されることになったわけです。(Commission on Presidential Debates

アートテレビ討論会への批判と抗議運動

テレビ討論会は、候補者が多くの視聴者に直接政策を訴えアピールできる絶好の機会であることは間違いありません。すべての候補者に平等にチャンスが与えられるべきであるという、少なからぬ世論、批判の声は当初から上がっていました。CPDが設けた15%の基準に対しても、第三政党からの猛烈な反発が相次ぎ、街頭での抗議デモや訴訟などが頻繁に起こされてきました。 


2004年には、グリーンパーティーの大統領候補者デイビッド・コブとリバタリアンパーティーの候補者のマイケル・バドナリックが、ミズーリ州セントルイスで開かれていた討論会の会場付近で、第三政党を除外したことに対する抗議デモを行い、警察隊の隊列を破ったとして逮捕される事態も発生しています。これは、まれな例ではなく、ついこの間の第一回目のオバマ対ロムニーの討論会当日にも、グリーンパーティーの大統領候補と副大統領候補の二人が、抗議デモの最中に逮捕され8時間拘束されるという事件が起きていたのです。

2000年の大統領選で、テレビ討論会への参加を阻止されたグリーンパーティーの候補者ラルフ・ネーダーは、「世論調査で15%の支持という基準は、第三政党を討論会から排除し、第三政党からの声を抹殺するために設けられた基準である」「民間企業がスポンサーとなっている討論会は連邦選挙運動法に違反する」として、連邦裁判所に裁判を起こしました。

 これに対し、ワシントン巡回裁判所は2005年、連邦議会は連邦選挙委員会(FEC)に相当の裁量権を与えており、裁判所はFECの認識を覆すことはないと最終判断を下し、ネーダーを退けました。FECの認識とは、「第三政党は、CPDが民主党選挙委員会と共和党選挙委員会に監督されている確たる証拠を提示できていない」、また、「CPDは第三政党の候補者が討論会に参加すべきでない理由を提供している」というものです。その理由とは、第三政党の候補者や支持者によるキャンペーンや抗議が過熱し、ライブで行われる討論会を混乱させる恐れがある、というものでした。(United States Court of Appeals For the District of Columbia Circuit Argued May 9, 2005

今年もやはり、テレビ討論をめぐって裁判が起こされました。リバタリアンパーティーのゲイリー・ジョンソンが、今年9月CPDを相手取り、二大政党による馴れ合いの討論会は独占禁止法に違反すると訴えたのです。独占禁止法という、新たな角度で法律違反を訴える作戦です。法廷の決断は下されておらず、結局討論会への参加はできませんでした。

アメリカ国内には、こういった裁判は無意味だ、という冷ややかな視線があることも確かです。討論会の開催は、民主・共和両党を支持する民間団体が主催しているもので、両党の候補者同士による討論会を行うのは全く彼らの自由である、その計画に第三政党の候補者を入れるか入れないか、参加の基準を決めるのも彼らの自由であるという考え方です。

第三政党側もそのことはよくわかっていて、裁判を起こしても有利な判決が出るとは期待しているわけではないようです。むしろ、裁判に訴えることは話題づくりであり、第三政党の存在を世間にアピールする機会と捉えた彼らの選挙戦略という見方もできるでしょう。

しかし、テレビ討論会からの締め出しに対する批判は、年々高まっているようです。今回初めて、これまでCPDへの献金を行っていた二つの企業・団体が、スポンサーを撤退するという決断を行いました。第三政党のトップを走るジョンソン支持者や選挙監視市民グループなどからの抗議のメールなどが殺到したためです。これらの抗議行動は、少なくとも二つのスポンサーに影響力を与えることができたのです。(Two Sponsors Pull Out From Debates Over Exclusion Of Gary Johnson

アート第三政党候補による討論会

そんな中、10月23日、従来のテレビ討論会の不公正に不満を抱き、より開かれた自由で民主的な選挙を実現させようとする市民グループらが、第三政党の候補者4名による討論会を実現させました。過去に前例のない画期的な企画です。

討論会は、
Free and Equal Election Foundation というNPOが主催し、元CNNのキャスターであるラリー・キング氏が司会を務めました。討論会は、CSPAN(主に議会活動や公共関連の報道を行っている民間の非営利テレビ局)によって中継されると同時に、インターネットで配信されました。オバマ対ロムニーの討論会を中継する大手テレビ局はどこも中継しないどころか、ニュースにさえなりませんでした。

討論会では、オバマやロムニーがまったく取り上げなかった様々な分野にわたる政策が論じられました。中でも、保守かリベラルかに関わらず第三政党の4候補に共通している政策が、イラクやアフガニスタンの米軍の即時撤退と軍事費の大幅縮小です。コンスティテューションパーティーのグッドが「アメリカは世界の警察ではない」と述べると、スタインは民間人の犠牲者を多数出しているドローン(無線操縦機)等による爆撃の禁止を訴えました。

また、気候変動と環境に関する政策にも、大統領選で初めて注目が集まりました。グリーンパーティーのスタインは、旗印のグリーンニューディール政策で環境保護、再生エネルギー業界の振興で2500万人の雇用を生み出すとしたのに対し、ジャスティスパーティーのアンダーソンはアメリカとって長期的な脅威はテロリズムよりも気候変動であるという見解を示しました。

さらには、

・二大政党システムの解体による自由で真に民主的な政治の実現
・候補者アクセス要件の改定を含む選挙制度の改革
・大企業による政治献金で絶大な影響力を振るうPACPolitical Action Committee)の廃止
・市民権の侵害である愛国法(Patriotic Act)の撤廃
・連邦予算の赤字の大幅削減
・富裕層に有利な税制の廃止
・マリファナの合法化や同性婚の合法化の是非
・平等に医療を受ける権利・・・

など、何れも国家的危機であり、国民の生活が直面する課題でありながら、オバマ・ロムニーが一切触れなかったか、なるたけ避けている政策が、次々に議題にあがりました。この討論会の様子は次のサイトから視聴できます。(→Third Party Presidential Debate

アートようやく見えた希望の光

4人の候補がもたらした多様な視点、既成の政治体制や巨大企業に媚びない自由で大胆な発想、そして政治的主義の異なる4人が繰り広げた自由闊達な政策討論を、なんと表現したらよいでしょうか。

オバマ対ロムニーによる、意図的に狭められ硬直したネガキャンの応酬に辟易していたアメリカの有権者たちにとって、それは、まさに重苦しく停滞した大地に吹き渡った清涼なる風ではなかったでしょうか。そして、彼ら第三政党の存在こそ、将来のアメリカを公正で真の民主主義国家へと導く、希望の光と感じられる討論会だったと思うのです。

確かに、これら4名の候補者は、民主党、共和党それぞれからいくらかの票を奪う可能性はあるにしても、二大政党を脅かすようなことにはならないでしょう。支持率でリードしているリバタリアンパーティーでさえ、目標は一般投票で全体の5%の得票に過ぎません(5%は、2016年の大統領選で公的資金が提供される得票率)。しかし、資金規模の壁、知名度の壁に加え、署名や登録者数など候補者アクセスの要件の壁、選挙人制度の壁、大企業スポンサーや主流メディアの偏重の壁・・・様々な壁を乗り越えて、ここまで選挙戦を戦ってきた第三政党の候補者たちに精一杯のエールを送りたい気持ちです。

第三政党から立候補するということ、第三政党を支持するということ、それは二大政党政治への挑戦という途方もないチャレンジです。二大政党政治とは、別の言葉で言えば、アメリカ政治を支配するいわゆるエスタブリッシュメント(既成の権力機構)であり、どちらが政権を担っても、民主主義の根本にかかわる部分、そして、世界における政治的・軍事的プレゼンスでは大きな違いがないことはすでに明白です。

そして、このブログで指摘したように、二大政党政治が、それを現状維持・拡大するための手段として、国政選挙の制度には、第三政党の台頭の可能性を排除する二重三重の不公正な仕組みが組み込まれているのです。残念ながら、多くの有権者はこのことに盲目です。オバマ・ロムニーの接戦に盛り上がる人々は、実は真の民主主義を自ら捨て去り、国民の利益ではなく、企業利益や軍事利益のために機能する二大政党政治システムに、無意識のうちに加担しているといっても過言ではないでしょう。

2012年の大統領選、果たしてどれほどの数の人々が、第三政党を支持する意志を示すのでしょうか?

アメリカの全有権者数はおよそ2億1300万人、実際の投票数は1億4000万票程度になると見られています。第三政党の得票率が、4人合わせて仮に全体の1%だとしても、140万人というおびただしい数の有権者たちが二大政党政治への挑戦を意思表示すことになります。ここに、私はアメリカの希望の光を見るのです。

最後になりましたが、第三政党候補者による二回目の討論会が、選挙の前日の11月5日に開催される予定です。第一回目の討論後の視聴者評で選ばれたグリーンパーティーのスタインと、リバタリアンパーティーのジョンソンが討論に臨みます。超リベラルのスタインと、超保守のジョンソンが、どんな意見をぶつけ合い、互いに第三政党のプレゼンスを高め合うことができるか、興味深く見守りたいと思います。 

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posted by Oceanlove at 17:25| アメリカ政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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