2013年04月28日

日本の安全保障と将来の道 シリーズ(1)中国の台頭と今後のアジア

昨年より表面化した尖閣諸島の領有権を巡る日中の衝突により、東シナ海では一発触発の状態が現在も続いています。経済活動への打撃も大きいばかりか、レーダー照射事件や不穏な朝鮮半島情勢、歴史問題などがあいまって、日中双方の対立感情が高まり、東アジア情勢は悪化の一途をたどっています。

そんな中、安倍政権は、
2013年度の防衛関連予算を1000億円増額、自衛隊員を1万8000人増員して軍備強化を行い、集団的自衛権の行使を可能にするための憲法改正(改正要件の変更)を次回選挙の争点にしようとしています。また、歴史認識をめぐり、過去の日本の侵略や村山談話の謝罪を否定するかのような持論を展開し、東アジアの緊張を著しく高めています。
 

今や中国はGDPで日本を抜いて世界第2位。軍事支出は、ダントツで高いアメリカに続いて世界第2位の1143億ドル、日本の2倍以上です。今後10年以内にもアメリカ凌ぐ経済力を持つようになると予想されています。一方で、近年の中国の海軍力の著しい増強と東シナ海・南シナ海への進出に伴い、周辺アジア諸国との間にいくつもの衝突が引き起こされています。中国の動向は、周辺諸国の懸念であるのみならず、中国との関係はアジア太平洋地域の平和で安定的な発展の鍵といってもいいでしょう。 

今回から数回にわたり、中国の経済的・軍事的台頭や、アメリカの衰勢と戦略など国際情勢の変化を踏まえ、日本はどのような安全保障政策をとるべきか、国益をどのように守り、どのような国の将来を目指すべきか、について考えていきたいと思います。

この大きな問いに答えるために、日本の安全保障に関わるテーマを以下のようなシリーズに分けて分析し、考察していきます。
 

1. 中国の台頭と今後のアジア
2. 米中対立−台湾問題
3. 米中対立−南シナ海における領有権問題
4. 中国の海洋戦略
5. アメリカのアジア太平洋戦略
6. 日本はどのような日中関係を築いていくべきか 

 
シリーズ(1)中国の対等と今後のアジア

今後の中国の政治・経済の動向、アジア諸国の発展はどのように予測されているのでしょうか?

2012年12月、アメリカの国家情報会議(NIC)が、
Global Trend 2040 Alternative World(2030年の世界展望)」 という、今後約20年間の世界の動向を予測する報告書を出しました。国家情報会議は、様々な情報機関から情報を集約し、米大統領のために世界の政治・経済・社会情勢の中・長期的予測を行う諮問機関です。                                              

中でも興味深いのは、2030年までには、アメリカ、中国を含めたどの国も、一国が世界の覇権を握ることはないであろうという予測です。つまり、今後15年くらいの期間に、アメリカの衰退と中国やインドなどの新興国の台頭が進行する結果、パワーは分散する形になるということです。そして、アジアについて言及した部分で注目すべきことは、アジアが新たな競争や紛争の地域になる可能性があるという指摘です。(以下、青字は引用) 

東アジア地域は、第二次世界大戦の戦後処理の特殊性ゆえに、朝鮮半島や台湾海峡をめぐる争いがいまだ絶えず、歴史問題は各国間に緊張をもたらす根深い要因となっている。中国の台頭と、各国でのナショナリズムの勃興、アメリカの影響力の行方なども、この先数十年、この地域の緊張を高めている。日中、日韓、中韓、印中、中越間の困難な現状に見られるように、経済面での協力や相互依存は、これらの歴史問題の禍根を減らすことにはならなかった。 

やはりアジアにおける最大の懸念は、中国の軍備増強や海洋権益の拡大、そして中国が抱える国内の不安定要素です。中国は、今後5年程度で、一人当たり1万5000ドルの購買能力を持つレベルに達しようとしていますが、これはしばしば民主主義が引き起こされるレベルであるとされています。民主化のうねりとともに、中国のソフトパワー(柔軟路線)が主流になる可能性と、民主化によってさらにナショナリズムと強硬路線が強まる可能性があります。NICの報告書は、中国の不安定性について次のように述べています。 

中国は、今後もアジアのトッププレーヤーの位置はかろうじて維持するだろう。しかし、持続可能な革新的経済モデルに転換することができなければ、これまでのような圧倒的な影響力は失っていくだろう。極端なケースでは、都市部と内陸部の間の貧富の拡大、チベットや新疆ウイグル地区の断絶で、中国は崩壊する可能性がある。このような状況になれば、中国政府はそれらを回避し国内問題から目をそらすために、予想外の対外強攻策に出て、近隣諸国やアメリカとの衝突を引き起こすかもしれない。そして、もしその強攻策が失敗すれば、中国という国家の存続にとって致命的であり、成功すれば、それは中国の世界支配の可能性が高まるということである。 

その上で、今後のアジアの進路として、4つの可能性が示されています。

 1)   現状の秩序の維持。アメリカのリーダーシップの下、アジア各国間のルールに基づいた協調と連携、競争を推し進める。引き続き、アメリカとの同盟関係やアメリカの海洋権益が、中国の軍事増強や北朝鮮の核疑惑などの脅威に対する抑止力となり、地域の安全保障に重要な役割を果たす。環太平洋地域全体の経済成長が持続する。 

2)   アジア諸国の力がせめぎ合う。中国の台頭とアメリカの弱体化により、パワーバランスが劇的に変化し新たな競争がもたらされる。アメリカがアジアの安全保障を確約できなくなり、アジアはRipe for Rivalry(地域競争・紛争時代)(注)に突入する。アメリカの核の傘の消滅により、独自に核武装を進める国もあるかもしれない。 

3)   中国の政治がリベラル化に向かうことを前提に、東アジアが民主主義と平和を基調に統合したヨーロッパに順ずる形で発展する可能性。アジア諸国がそれぞれの独立性を維持しながら、平和的に複雑多様な秩序を形成する。この場合、地域の安全保障には引き続きアメリカの力を必要とするかもしれない。 

4)   中国の覇権を中心とするアジア。中国の支配がアジア全域に拡大し、中国がピラミッド型のアジア諸国の頂点に立つ形で、現在とは異なる秩序が構築される。この場合、アジア地域の連携は、1990年代以来構築されてきたよりオープンな環太平洋地域全体の連携ではなく、アジア諸国に限定されたより閉鎖的なものとなるだろう。 

(注)Ripe for Rivalryとは、「ナショナリズム、権力闘争、歴史認識、軍備拡張、エネルギー需要などといった要素によって、アジアは次世代の地域紛争のホットスポットになるであろう」という、アメリカの国際関係の専門家の間で1990年代に主流だった予測です。その予測に反して、これまでアジアは比較的安定的に成長し経済発展を遂げてきましたが、2013年の今正に、Ripe for Rivalryの時代に突入しようとしている、というわけです。 Foreign Policy “Ripe for Rivalry Has Asia’s moment of reckoning finally arrived?” 

この「2030年の世界展望」の予測は、アメリカの国家情報会議(NIC)によるひとつの分析に過ぎません。しかし、厳しい財政状況により軍事費の削減を余儀なくされるなど、アメリカの軍事力が相対的に縮小される傾向にあること、アラブの春に見られる中東におけるアメリカの影響力の低下、中国やインドなど新興国の経済発展などの世界的潮流から、もはやアメリカによる一極支配は成り立たず、パワーは分散していくだろうというNICの予測は、極めて冷静で的確な分析だと考えられます。 

また、オバマ政権が外交政策の重心をアジアに転換するとしているように、中国の台頭とアジアの経済発展にアメリカの関心が移ってきていることは明らかです。アメリカが注意を払い、政治介入し、軍事展開をしようとする場所こそ、大きな利害関係が存在する場所なのです。この観点からも、中国の動向と今後のアジアに関する上記の4つの可能性を踏まえ、日本はいま、日中問題とどのように向かい合い、どのような安全保障政策を進めていくべきか、考えていきたいと思います。 

シリーズ(2)米中対立−台湾問題 へ


posted by Oceanlove at 00:26| 日本の政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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