2013年04月28日

日本の安全保障と将来の道 シリーズ(2)米中対立−台湾問題

東シナ海における尖閣諸島の領有権問題や、日中の船舶の衝突、中国の南シナ海への進出などについて議論するとき、私たちはそれは日中間の問題としか見ない傾向があります。しかし、本稿では日中間の領土問題は、地理的には日中間の争いでありながら、その根底にあるのはより大きな米中対立である、という立場に立っています。

神田外語大教授の興梠 一氏は、中国の海洋戦略は、中・長期的には、アメリカとの軍事衝突を想定した防衛ラインの拡大だと指摘し、「米中新冷戦の中に日本がすっぽり入っている状態だ」と表現しています。新冷戦とは、中国の台頭によって生まれた、アメリカと中国、太平洋を挟んだ大国同士の対立構造を指すわけです。もちろん、現在の米中関係は、経済的交流もなかったかつての米ソの冷戦とは似て非なるものです。しかし、日中問題は単に二国間の問題としてではなく、より大局的な米中の対立構造の中で捉えていく必要があるということです。

では、より大局的な米中の対立構造とは、どのようなものを指すのでしょうか?つまり、アメリカと中国の間には、具体的にどのような利害対立があるのでしょうか?

米中の利害対立の主なものとして、以下の3点が挙げられます。

  ・東シナ海の尖閣諸島をめぐる問題
  ・台湾問題
  ・南シナ海における中国とASEAN諸国間の領有権問題

なぜ、日中の尖閣問題が出てくるのかと思われるかもしれませんが、上記の3つのいずれの問題も、係争にかかわる国や地域は異なりますが、狭義的には中国と近隣のアジア諸国との間の領有権対立であり、広義的には、米中による海洋権益とアジア太平洋地域への影響力をめぐる対立であると言えます。南シナ海の問題と、日本が直接かかわっている東シナ海の尖閣諸島をめぐる問題については、後のシリーズで詳しく考察することとして、ここでは、まず台湾問題について簡単に触れておきたいと思います。

台湾をめぐる米中対立

中国
(中華人民共和国)と台湾(中華民国)は、現在、実質的には異なる主権と政治体制を保持しているにもかかわらず、表向き、法的には「台湾は中国の一部」となっています。国際社会においても、台湾は国家として承認されていません。第二次世界大戦後、民主主義国として独立を目指す台湾と、あくまで「一つの中国」を貫く中国が、長期間にわたり対立状態にありました。台湾の独立の動きを阻止するために、中国が武力による威嚇を行うなど、台湾海峡をはさみ台中関係は最近まで軍事的な緊張が続いていました。その台湾を後方から支援してきたのがアメリカです。

さかのぼれば、アメリカが台湾を擁護する背景には、第二次世界大戦当時、毛沢東率いる共産党に対し、蒋介石率いる国民党をアメリカが支持し、蒋介石が台湾に逃れた歴史的経緯があります。冷戦中には、アメリカにとって台湾は日本と同様、中ソ共産圏に対する西の防波堤の役割を果たしていました。

しかし1979年、アメリカは中国との国交正常化を決断し、「台湾は中国の一部である」という中国の立場を受け入れ、台湾との国交を断絶します。ただし、中国は、アメリカと台湾が商業的、文化的、非公式な交流を続けていくことを承諾し、アメリカ議会は国内法である「台湾関係法 (Taiwan Relations Act)(1979年施行)を制定しました。以来、この法律の下に、アメリカは台湾を国家同様に扱い、台湾への武器輸出等を行ってきました。

台湾関係法はアメリカの国内法であり、日米間の安全保障条約とは異なり、アメリカに台湾を守る義務はありません。しかし、「アメリカ合衆国は、中華民国の国民の安全、社会や経済の制度を脅かすいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる防衛力を維持し、適切な方法をとらなければならない」という遠まわしな表現にもあるように、この法律は事実上、アメリカと台湾の軍事同盟であるともいわれています。 ウキペディア 「台湾関係法」より

しかし、アメリカはこれまでどおり民主的な台湾を味方にしておきたいが、中国の反感を買って軍事的衝突になることは避けたいわけです。台湾海峡での台中間の武力衝突は、即米中間の武力衝突となり兼ねず、アメリカにとっては大きなリスクです。従って、アメリカは、中国を刺激しないよう台湾独立の動きをけん制し、表向きは「一つの中国」を支持しつつ、裏では台湾に武器を売って防衛力を備えさせる、ということをやってきました。

つまり、アメリカは常に台湾の利用価値とリスクを計りながら、中国を封じ込める戦略をとってきたのです。台湾は、中国による統一の圧力と、台湾を軍事支援しながらも独立はさせないというアメリカの意向との間で翻弄され続けてきたといえます。そういう意味で、台湾問題は、台湾自身の独立問題ではなく、台中の二国間問題でもなく、その根底にはより大きな米中問題があるということです。

今日、台湾独立の現実性や気運は弱まり、台中関係は政治体制は現状維持のまま、経済協力関係や平和的外交関係が形成されつつあります。しかし、なおアメリカが台湾に武器を輸出し擁護するのは、今後も台湾を中国に併合させずに、アメリカの東アジア戦略の布石の一つに留めておきたいからです。

台湾が中国に併合されれば、台湾海峡を含む周辺海域が中国に制圧されることになり、アメリカは、これまで手中にあったこの海域における船舶の自由な航行を含めた様々な海洋権益を失うということになります。それはすなわち、東アジアにおけるアメリカの影響力と中国の影響力のバランスが崩れるということであり、アメリカのアジア戦略にとって極めて大きな損失となるでしょう。つまり、台湾問題は、突き詰めていくと、周辺の海洋権益とアジアにおけるパワーをめぐる米中の対立なのです。 


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posted by Oceanlove at 01:07| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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