2016年03月27日

インタビューシリーズ第3回「バークレー市議会による辺野古基地反対決議」

 ゲスト: ジョージ・リップマン氏(50代)。カリフォルニア州バークレー市 
“平和と正義”委員会委員長。システム・エンジニア。

■まえがき

20159月、カリフォルニア州バークレー市議会は、沖縄の米軍普天間飛行場の移設に伴う、名護市辺野古の新基地建設に反対する決議を採択した。

決議では、米軍基地が集中している沖縄では長年県民に重い負担がかかっていること、地元住民が移設に反対していること、新基地建設は辺野古沿岸に生息する哺乳類への悪影響があることに言及し、米政府に対し沖縄の民意の尊重と環境の両面を考慮し、法に基づいた措置をとるよう求めている。


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バークレー市議会の決議文のコピー


日本国内では、普天間飛行場の辺野古移設をめぐって、安倍内閣と沖縄県の対立が続く中、沖縄以外の地域に住む日本人は、まるで自分とは無関係であるかのように、沈黙している。辺野古への新基地建設は、当然のことながら、日本全体の安全保障に関わる問題であり、沖縄の周辺住民だけの問題ではない。にもかかわらず、国民の多くにとって、これは、あくまでも沖縄と中央政府の対立なのだ。

日本国民が沈黙している理由は二つある。ひとつは、沖縄に重い負担を押し付け続けるのは気が引けるが、かといって、その肩代わりを自分の住む地域で引き受けようとは思わないから。

もうひとつは、辺野古新基地建設は、日米同盟の軍事戦略の一環であり、日本政府だけの意思で決定することができないからだ。言い換えれば、対米従属の日本はアメリカにNOと言えないと分かっているからだ。

そんな中、何千キロも離れた沖縄で起こっている米軍基地問題を、自らの問題として捉え、環境保護や人権、民主主義の観点から、沖縄の人々の側に立ち、米連邦政府に自らの安全保障政策を見直すよう促す決議をアメリカの自治体が行ったことは、大きな驚きである。

今回、バークレー市議会を辺野古基地建設反対の決議に導いた、同市の“平和と正義” 委員会の委員長であるジョージ・リップマン氏に話を聞くことができた。

バークレー市の“平和と正義”委員会とは、どのようなもので、どんな活動を行っているのだろうか?また、日米同盟やアメリカの軍事について、どのような考えをお持ちなのだろうか。

■インタビュー

筆者: 今日は色々お話を聞かせていただきます。まず初めに、リップマンさんとバークレー市議会との関わり、“平和と正義”委員会の活動について簡単にお聞かせください。

リップマン: 私は、バークレー市の“平和と正義”委員会に委員として2008年から約8年間かかわっています。2009年からは委員長を務めています。“平和と正義”委員会は、市議会や教育委員会から指名を受けた15名のメンバーで成り立っています。バークレーには、35以上の様々な分野に特化した委員会があります。12万人規模の都市にしてはとても多く、各委員会が活発に活動をしていますが、これは市民が政治に関わる非常によい機会です。

日本から見学に来た方々もいましたが、日本に比べ、私たちの議会のオープンで民主的なやり方に非常に感銘を受けておられたようです。我々委員、市議会議員、傍聴する市民が同じフロアで席につき、意見を述べ合うことができるのです。

この国の民主主義のあり方にはいろんな問題点もありますが、我々の民主的な政治活動には誇りを持っています。日本の方々は“バークレーモデル”と呼んでいました。

筆者: どのような委員会があるのですか?

リップマン: 女性問題、住宅問題、地域医療、ホームレス問題、警察による取締りなど様々な分野の委員会があります。“平和と正義”の委員会では、文字通り平和や正義に関わることなら何でも取り上げています。誰でも議題を取り上げることができるのです。

■社会の変化は、市民の意識や習慣が変化によってももたらされる

筆者: “平和と正義”委員会はどれくらいの歴史があるのですか?

リップマン: 1986年に始まり、30周年を迎えました。80年代には、中央アメリカでの紛争や核問題、そして、南アフリカのアパルトヘイト問題などの人権問題が注目を浴びていました。これらの問題について、声を上げることが重要だと考える市民が市議会に提案し、このような委員会として発足したのです。

筆者: 現在、とり上げられている議題には、どのようなものがありますか?

リップマン: 国内問題と国外問題の両方があります。ホームレス問題などバークレー市に直結する問題はもちろんですが、世界で起きていることに目を向けることも非常に重要です。

そして、時に両者が重なっている場合もあります。例えば、移民問題、スウェットショップ問題、ヒューマントラフィッキング(人身売買)、子供の労働問題などです。カンボジアやバングラデッシュといった国での労働問題は深刻です。

我々は、現実にそういうことが起きている世界に住んでいて、我々の世界は、決して彼らの世界と無関係ではないのです。ですから、市民の一人として、人権問題や不正義に声を上げることはとても重要なことだと考えています。

筆者: では、それらの議題について、どのようなプロセスで進めていくのでしょうか?ゴールはどのようなところにあるのでしょうか?

リップマン: そうですね、独自のリサーチや勉強会を行うこと、専門家を招いて公聴会を開くこと、そして、決議案にまとめていきます。

しかし、我々は最終的な決定者ではないんです。市議会議員だけが市としての政策を議決することができます。我々は彼らに対して考えをまとめ、伝え、政策決定の際の材料を提供するのです。ですから、議員たちが最善の政策決定が行えるように、我々がより広い範囲の人々の声を聴き、情報収集を行い、問題点を拾い上げ、判断材料の土台作りをすることが我々の役目なのです。

そして、議会は我々の勧告を往々にして受け入れ決定をします。なぜなら、そのために我々が十分な準備と議論をしているのですからね。

時には、他の委員会と合同で議論することもあります。「女性委員会」と合同で性的人身売買の問題を共に取り上げたり、「警察の取り締まりに関する委員会」と合同で人種差別と公平性について議論することもあります。

例えば、軽犯罪者を刑務所に入れるのではなく他の更生の道はないのかを専門家や警察関係者を交えて意見を出し合い探るのです。例え、決議に行き着かなくても、そのオープンな議論をすること自体にも意義があるのです。

社会の変化とは、法や条例といったルールの改正ばかりではなく、市民の意識や習慣が変化することによってももたらされるのです。ですから、我々は市議会メンバーたちに、パブリックエデュケーションの大切さをいつも進言しています。

■戦争はなぜ起きるのか? という根本的な問題について

筆者: では、沖縄問題について伺います。日本人ですら正面から向き合っていない問題に、アメリカの自治体の皆さんがが取り組み、日米両政府の計画している辺野古への基地建設に反対の決議を下したことは、衝撃的でさえあります。どのような経緯で、バークレー市がこの問題に取り組むようになったのですか。

リップマン: “平和と人権”委員会のダイアナ・ボーン委員と、地元のNPO「真の安全保障を求める女性の会」(WGSWomen for Genuine Security)が主導的な役割をはたしました。

WGSの主張は、真の安全保障は軍事行動によってはもたらされない、というものです。莫大な軍事予算がもたらすのは、破壊と国家間のより大きな摩擦です。そうではなく、人々のニーズに応えることこそが真の安全保障なのです。女性は、軍事化により特に大きな痛みをうけます。戦後の沖縄はその典型的な例です。ベトナム戦争時に米軍の拠点ともなっていた沖縄では、多くの女性たちが売春に関わることを余儀なくされました。

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真の安全保障を求める女性の会(WGS)のパンフレットの表紙

このNPO団体のインプットがあってこそ、我々の“平和と正義”の委員会でよりよい沖縄のための決議案を作成することができたのです。過去には、従軍慰安婦問題や、時間国のジェジュ島における在韓米軍の問題にも取り組んできました。

筆者: 決議では、辺野古への米軍基地の建設に反対する理由が3つに集約されていました。環境保護、地元住民の生活と人権保護、そしてもうひとつは、沖縄の人々が自らの生活の問題を自ら意思決定をするという民主主義の根本的権利の保護です。

沖縄に限ったことではありませんが、国家の安全保障に関わる問題になると、地元住民の意思や権利よりも国の政策が優先されてしまいます。ただ、日本の安全保障は、常にアメリカの軍事政策と密接に結びついていますから、沖縄問題は、アメリカのアジア太平洋地域における軍事政策の問題でもあります。そのことにバークレーの人々は注目したのですね。

アメリカの国民として、アメリカ軍の海外での駐留をどう受け止めていますか?国の軍事政策を推し進めることと、基地周辺の住民の生活や人権を守ることの両立は難しい問題だと思いますが・・・。

リップマン: ・・・(沈黙)・・・この問いに答えるためには、なぜ戦争が起きるかという根本的な問題を考えなければなりません。例えば、ベトナム戦争。戦争をする者たちは、戦争で何かが解決されると言います。戦争の後に、平和的な恩恵がもたらされると。しかし、数百万人という犠牲者とインドシナ難民を出した上に、平和の恩恵などはなかったのです。

一部を除き米軍の撤退や縮小もなく、今日に至るまで米軍の軍事政策に大きな変更はありません。その後も、中央アメリカや中東で軍事的アジェンダを追及してきました。でも何も解決されず、アメリカの根本的な軍事政策は変わっていません。

オバマ政権になってからもそうです。結局、これは軍事だけの問題ではないのです。軍事力を含む世界の権力の問題です。だから、戦争によっては何も解決しないのです。

■政府のやることに対し、国民は責任を持っている

筆者: 現在日本では、安部政権が憲法9条の解釈を変更による自衛隊の海外派兵の容認や、安保法による米軍との軍事協力の強化が急速に進んでいます。国民の多くは反対していますが、日本は同盟国としてアメリカの軍事戦略の一翼を担う形になりつつあります。この現状をどうご覧になりますか?

リップマン: 日本は、世界の小国ではありません。イギリスやフランス、カナダ、といった先進国の一角を占める大国のひとつです。アメリカと対等ではないとはいえ、日本はアメリカに対してもイエス・ノーをはっきり言える立場にあると思いますが。。。

ただ、沖縄は言わば日本の植民地のような状態ですね。

筆者: 確かに、本土に住む人々は、沖縄の現状を知らない、見ようとしない傾向が強いと思います。

リップマン: 現政権が憲法の解釈を変えて、以前はできなかった自衛隊の派兵をしようとしていることは知っています。私は、日本の国内状況を詳しく知りませんし、選挙が公正だったかどうかなどまったく知りませんが、日本は民主国家ですから、国民が支持した現政権がそのような選択をしたということなのではないでしょうか。ただ言えることは、沖縄の人々にとっては好ましい話ではないでしょうね。

しかし、政府がやることはすべて国民の意思というわけではありませんからね。それこそアメリカがよい例です。こんなのは、真の民主主義とは言えません。

しかし、一方で、政府がやることに対し、国民は責任を負っています。

筆者: 日本は、地域の安全保障にもっと貢献すべきという声がある一方、日本の軍事強化は中国や韓国などアジア諸国との間に不必要な政治的な摩擦を起こすというジレンマがあります。そして、それ自体がアジアの不安定要素となりえます。

リップマン: 私は、日本の憲法9条を支持しています。日本は軍事国家になるべきではありませんし、ドイツだって同様です。それは第二次世界大戦の結果ですから。しかし、日本とドイツを現在の世界の軍事地図から取り除いたからといって、今日の世界が抱える問題が解決するわけではありません。

ネバーアゲインという言葉を知っていますか?私はユダヤ人ですが、私たちがこの言葉を使うときは、「二度とホロコーストを繰り返してはならない」という極めて限定的な強い意味が込められます。戦後70年、ユダヤ人のコミュニティーが作られ、保護された民族になり、ユダヤ人国家が建設され、そして今日、ユダヤ国家は他の民族を迫害している、それはまた別の議論になりますが、要するに、「ネバーアゲイン」というのは、戦争の犠牲になったすべての人々に共通の思いであるということです。

第一次世界大戦は世界の問題を解決せず、第二次大戦でも解決せず、人類は戦争を終わらせることができていないのです。なぜかと言えば、それは戦争の根本的な原因が経済()の支配にあるからです。つまり、世界の経済を支配する権力争いの問題だからです。そして、その支配構造が変わらない限り、国家による軍備は拡大する一方でしょう。

■ショック・ドクトリンを推し進めたアメリカ

筆者: 第二次世界大戦以降、その支配のパワーはアメリカに移行し、世界の覇権国となったアメリカが言わば世界の警察官となってきたわけです。確かに、世界大戦はおきていません。しかし、そのプロセス、アメリカのやり方は必ずしも正しかったとは言えません。

中東諸国には独裁政権をおくことによってかろうじて安定が保られてきました。しかし、欧米諸国や日本の私たちが享受してきた自由や人権が、中東諸国の人々からは奪われた状態が続いてきたのです。私たちはそれに目をつむってきたのではないでしょうか?

リップマン: 一言で言えば、(世界の支配構造の結果)、途上国においては自由や民主主義は贅沢品になってしまっているということです。経済的に豊かな先進国では当たり前のものが、途上国では手に入らない・・・そういう意味でいわば贅沢品です。

筆者: そのことが、アラブ諸国がアメリカを敵視する要因になってると思いますか?イスラム過激派は、独裁政権に抑圧された人々の、アメリカへの反感をうまく利用して戦闘員のリクルートまでしていると。

リップマン: まさにそうです。

筆者: IS対策はどうしたらよいと思いますか?複数の国が空爆をしていますが?

リップマン: 空爆には反対です。悪循環に陥るだけです。

First do no harm という言葉があります。手術する前に、まずそれが容態を悪化させないかと検討しなければなりません。武力による介入はマイナスの結果しかもたらさないことは、もうわかりきっています。巨大破壊と、憎悪と、対極化を引き起こし、その結果、国家も社会も弱体化していくのです。

「ショック・ドクトリン」という本を知っていますか?

筆者: ナオミ・クラインの著書ですね。

リップマン: そうです。みなにお勧めしている本です。これは、(アメリカは)ショックを与えること、つまり積極的に他国へ介入し破壊をもたらすことによって、政治的・経済的・軍事的利益を得ているというセオリーです。まさに破壊的資本主義です。ネオリベラリズムは、このショック・ドクトリンを推し進めてきたのです。

中東をどうしたらいいのか・・・。その答えは、このような背景を考えた上で見出していかなければなりません。そして、我々は長期的な視野を持つべきです。50年後には世界はどうなっているか。どうなっていて欲しいのか。頭を使って考えて考えなければなりません。

例えば環境破壊は深刻です。50年後には陸地の多くが水没するということは予測されているのに、私たちはまだ解決のための行動に出ていません。それに伴う様々な打撃は計り知れないでしょう。でも、誰も将来のことなど考えていないのです。すぐ目の前のことしか見ていないのです。きっと、破壊が現実になるまで分からないのかもしれません。だから同様に我々は、経済の支配を続け、権力支配を続け、軍事支配を続けるのです。

私は、もちろんこんな不完全な状況に対する完璧な答えを持ち合わせていません。でも、問題解決のためには、まずこういう現実について知ることから始めなければならないのです。

筆者: ありがとうございました。

posted by Oceanlove at 08:58| 安全保障インタビューシリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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