2016年04月21日

インタビューシリーズ第4回「日本の人々は真に自立する覚悟があるのか?」

アメリカの軍事政策、日米同盟、そして平和憲法などをテーマに、日米の専門家・一般市民にインタビューを行い、シリーズで掲載します。様々な立場の人々の意見に耳を傾けることで、この問題に関する知識と理解を深め、自らの安全保障問題を考える際の材料としていただければ幸いです。

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ゲスト: ケン・タイハスト氏(50代)。退役軍人。ブルガリア、サウジアラビア、英国などの空軍基地にて勤務。共和党支持者(ただし、今回の大統領予備選では共和党に支持候補はいない。サンダースに共感)


筆者: 今日は、空軍でのご経験を踏まえていろいろなお話を伺わせていただきます。私の質問は、リベラル・反戦の立場からのものが多くなると思いますが、オープンな議論を楽しみにしています。

タイハスト: 今、リベラル・反戦の立場と言いましたね。戦争に行く立場にある人間が、好戦的だというのは、大きな誤解なんです。我々は決して好戦的ではないんです。だって、現実に犠牲になるのは軍人ですよ。

軍人は常に両極の間に立たされています。つまり、戦争などない方がいいに決まっていて、必ずしも軍事作戦に賛同しているわけではないけれども、より大きな善のために、やるべきことをやらなければならない人間たちいると認識しているということです。そして、自分のやっていることが、大きな善のためになることを願っています(動画参照)。

当然そこには政治的な駆け引きなどが入り込んでくるわけですが、純粋な気持ちとしてはそうなのです。

もし誰かが行かなければならないのなら、自分が行こうという、自らの静かな決意です。もちろんいきがっているだけの軍人もいますよ。でも、戦場に出たらいきがってなどいられなくなります。

筆者: なるほど、そのような決意を持って志願する軍人さんは多いのでしょうね。


■アメリカは何のために世界各地に駐留しているのか。いつ撤退すべきなのか?

筆者: 現在、そのようにして兵役についている米国軍人は世界150カ国以上に、合わせて約15万人くらいいるわけですが、アメリカの国民の中には、「アメリカは世界の警察官ではない。他国への干渉を止めるべきだ。外国から軍を撤退し、軍備を縮小すべきだ」と考える人々も少なからずいます。このような意見について、どう思いますか?

タイハスト: 何のために世界各地に駐留しているのか、その目的によります。

時代を遡ると、例えば、ヨーロッパでは50年の間に二度の大戦で疲弊していて、再び戦争する余力はまったくありませんでした。ソ連はハンガリー、ルーマニア、チェコ、ポーランドなどの東ヨーロッパを影響下に置きましたが、それよりさらに西側に進行したとしたら、西ヨーロッパはどうなったでしょう?我々は、友好国として西ヨーロッパを見捨てるわけにはいきませんから、アメリカは、西ヨーロッパのために軍事援助のみならず経済援助も行いました。

しかし、問題は、ドイツにしても、イギリスやフランスにしても、いつアメリカの庇護から自立するかということです。現在も駐留しているのは、アメリカの意図なのか、あるいはヨーロッパ諸国が自らの防衛をアメリカに依存し続けたからなのか、あるいは、互いの依存度が高まったからなのか・・・。

筆者: 日本に目を移すと、アメリカが日本に駐留しているのは、日本の防衛のためではないわけですが・・・

タイハスト: ええ、もちろん違います。足がかりですよ。

筆者: アジア地域のコントロールのための足がかりですね。では、日本に駐留することで得られるアメリカの国益とは何ですか?

タイハスト: 何のために日本に駐留しているかと言えば、それは、中国に対するけん制のためでしょう。確かに、終戦直後の頃は、中国が脅威だったかというと、そういうわけではありません。しかし、大戦中のことを考えれば、中国が日本への警戒心を持っていたのは当然でしょう。どの国も自国の行動に対する責任は取らねばなりません。

筆者: アメリカ軍は、日中の間に入り、危機回避の役割を果たしていたと言うことですね。

タイハスト: その通りです。しかし、やはり問題は、仲介者である米軍はいつまで駐留すべきかということです。話を現在に戻すと、果たして日本は強大化する中国の軍事力に対抗できるのでしょうか?韓国は中国を後ろ盾にした北朝鮮に対抗できるでしょうか。米軍は撤退して、それぞれの国に任せるべきでしょうか?

筆者: 要するに、米軍のプレゼンスは地域の抑止力になっていると。

タイハスト: そうです。ただ、アメリカも微妙な立場に立っていますよ。アジアにおけるアメリカの国益としては、日本との技術協力やさまざまな工業製品の輸入、韓国からの鋼鉄の輸入などはアメリカ経済にとって重要です。でもアメリカの最大の貿易相手国は中国です。しかも、アメリカは中国に借りがあります。

ですから、日本や韓国は、アメリカが「中国のけん制」とか「日本や韓国の防衛」と言う時、どの程度の覚悟を持って言っているのかをよく見極めるべきです。アメリカは二股をかけているのですから。

筆者: 4万という在日米軍の規模についてはどう思いますか?脅威とはいっても何も起こっていないアジア地域に駐留する米軍規模としては多すぎませんか?

タイハスト: なかなか難しいところです。4万が多いか少ないか、ということより、現状を変更すると、必ず何らかの影響が出るということです。つまり突然、米軍が撤退したら、そこに力の空白が生まれるのです。その可能性は大いにあります。

例えば、イラク北部やシリアがそうです。アフガニスタンでも米軍が撤退した跡にタリバンが勢力を盛り返しています。もちろん米軍が永遠に駐留するべきだとは思いせんがね。

何かの問題が軍事的に解決されるだろうと考えるのは過ちです。軍の存在意義とは、積極的な意味であれ消極的な意味であれ、変化をもたらすための道具に過ぎないのです。しかし、何事でもそうですが、どこかの国や地域に恒久的な変化をもたらすことは、その国自身や地域が主体的に変化の必要性を見出さない限り困難です。

在日米軍が撤退するということは、日本は防衛を自ら担わなければならない、ということです。日本は憲法上、国境を越えて武力行使はできないわけですが、どうやって防衛するのですか?日本の人々は、中国に総攻撃されるまで、軍事的な対処はできないということでしょうか。

■現代の相互依存の世界では、傍観者であることは許されない

筆者: ご存知のように、日本では安倍内閣が2015年の9月に安保法を成立させ、集団的自衛権の行使が可能となりました。次回の総選挙で安倍さんが再選されたら、憲法改正を行うでしょう。多くの国民が反対していますし、私も憂慮しています。憲法上の箍がはずされる中、どうやったら日本は歴史の教訓を忘れずにいられるのか、それを求めることが、私が行っているのプロジェクトのテーマのひとつでもあるわけです。

戦後の日本の安全保障は、日米同盟、自衛隊、憲法9条の三本柱で支えられてきました。自衛隊の海外派兵は違憲であるとして、70年間戦争に加わることはありませんでした。イラク戦争のときも、アメリカの要請にも応じず、後方支援だけに留めました。しかし、世界の情勢は変わり、日本はもっと安全保障上の貢献をすべきだと言う声が高まり、改憲の議論になっているわけです。

実は、前回の2014年の総選挙で自民党が勝利した際には、憲法改正のことなどまったく争点にはなりませんでした。経済が主な焦点となり、安全保障や改憲議論はたくみに隠されていたのです。残念ながら、日本の政治は、与党の政治家、官僚、主要メディアなどに上手くコントロールされているのが実情です。

タイハスト: アメリカだって同じですよ。それらはみな繋がっている、それが政治というものです。第一次世界大戦前、ウッドウイル・ウイルソンは不干渉主義を訴えていましたが、ふたを開けてはじめて現実に大戦への介入の必要性が明らかとなったのでしょう。将来どんなことが起こりうるか、その可能性のすべてに備える、これは、権力の座についているものの責務でしょう。

これは特別新しい発見でもなんでもありません。でも、特にひがんだ(皮肉っぽい)見方をするべきでもないでしょう。やりますと言ったことと違うことをやる政治家、言葉をあいまいにしておいて、有権者にこれをやるだろうを思わせておいて、やりたいことをやる政治家もいます。

重要なのは、今我々は、相互依存する世界に住んでいるということ。関わることをやめて、脇に引き下がって傍観することは許されない世の中のです(動画参照)。

と同時に、国家は(どの国と同盟関係を結ぶかで)敵味方に分かれざるを得ない、ある意味とても危険な状況におかれています。もし5カ国が同盟関係で結ばれていれば、一国が攻撃された場合、他の4カ国は参戦しなければならないということです。

トルコはNATOに加入していますから、もしトルコがシリアなどから攻撃されたらNATOはルールに沿ってトルコを援護して戦わなければなりません。しかし、問題は複雑で、トルコはクルド人を攻撃しているのに我々はクルド人を守ろうとしている。味方同士なのに、異なる敵を相手にする状況が生まれている・・・極めて困難状況です。


■日本の人々は真に自立する覚悟があるのか?

筆者: 同盟関係にある国は、互いに責任を負い協力し合うことが前提ですが、その国の「能力の範囲内で」というところがポイントだと思うのです。日本は、憲法上の制約があるので、国境線を越えた地域での米軍との軍事協力は「能力の範囲」を超えているのです。

日本は、米軍との軍事協力を強化するために憲法改正をすべきでしょうか?

タイハスト: 戦後の日本はアメリカの影響下におかれてきました。アメリカは、正直なところ日本に真に自立してほしくはないのかもしれません。なぜなら、日本が完全に自立すれば独自の選択が可能になりますから。

これは、父権主義的かもしれませんが・・・、日米を親子関係だというつもりはありませんが、現在のような日米関係にあるとき、親としては子供にいつの日か、考え深くなり、自立し、毅然として自らの力で世界を航海していけるような大人になって欲しいとは思いませんか?

時に意見の対立が出ることもあるでしょう。でも、私なら、同盟国に対し、「いつでも手助けしますよ。でも、いつも上手くいくとは限らないけれども、あなたも自分の足で立つべきです」と言いたいし、そういう態度で同盟国に接するほうが、よっぽど互いに友好関係を深めることができるのではないでしょうか。こうしろああしろと指図を出して従わせるというような関係は無礼でしょう。

しかし、日本の場合、肝心の日本の人々は、真に自立する道を選択する覚悟があるでしょうか?終戦から2世代も入れ替わり、きっと戸惑いもあり難しい選択でしょう。国益を守るため、例えば、原油ルートの確保のために、自ら戦わなければならないかもしれないのですよ(動画参照)。

筆者: 私自身の本音を言えば、日本は真の意味で自立すべきだと思っています。そのために、憲法改正もすべきだと考えます。しかし、米国が日本を自由にさせたと仮定しても、残念がら今の段階では日本自身が米国への依存を断ち切って、自ら外交や国防の選択をしていけるまで成熟しているとは思えません。いわば、日本の自己決定の能力は蝕まれてしまっているのです。

有権者たちも、選挙で正しい選択をするための知識の準備、覚悟ができているとは思えません。ですから、私は日本は今はまだ憲法9条を保持すべきであると考えるのです。9条自体が価値ある理念であることはもちろんですが、日本が再軍事化して暴走したり、米軍と一体化して世界中で軍事力を行使するようなことにならないためにも、9条の歯止めが必要だと。

さらに言えば、アメリカの軍事行動が、世界で不評を買い非難されていることも事実です。そのアメリカと、常に一体化していると見られることは必ずしも得ではありません。ですから、今の時点では、日本はアメリカに軍事強化を迫られてもノーと言える憲法9条というカードを有効利用すべきだと私は考えるのです。

タイハスト: その考えはよくわかります。戦後70年、真に自立した防衛を経験していないことになりますからね。難しい選択です。


■アラブの人々の人権をどう考えるのか

筆者: 第二次世界大戦以降、その支配のパワーはアメリカに移行し、世界の覇権国となったアメリカが言わば世界の警察官となってきたわけです。確かに、世界大戦はおきていません。しかし、そのプロセス、アメリカのやり方は必ずしも正しかったとは言えません。

アラブ諸国には独裁政権を置くことによって安定が保られてきました。しかし、欧米諸国や日本の私たちが享受してきた自由や人権が、アラブ諸国の人々からは奪われた状態が続いてきたのです。私たちはそれに目をつむってきたのではないでしょうか?

タイハスト: この問題はイギリス統治時代にまでさかのぼるでしょう。アラブ諸国の多くは王族や独裁者が支配する国です。イラクを見てみれば、フセインは、拷問や死刑などの手段を含む圧制によってイラクを統治する独裁者でした。しかし、イランとの戦いの時には、イラクはアメリカの味方でした。「敵の敵は味方」の原理です。リビアのカダフィやシリアのアサドも同様です。

しかし、その独裁者たちがいなくなり、押さえつけていたふたが持ち上がったアラブ諸国には、まったくコントロールが効かなくなったのです。

まったく皮肉なものです。我々西側諸国では人権が尊重されています。また、ジュネーブ条約で謳われてれているように、戦闘の最中にあっても守るべきルールがあり、例えば教会や病院への爆撃は禁止されています。そういう原則があるにもかかわらず、我々はこれら独裁者の市民への強権的な振る舞いに対して口出しせず、むしろ独裁者たちをサポートしてきたわけです。なぜかと言えば、中東からの物資の流れ−主に原油ですが−を滞らせないためです。

政治とは厄介なものです。ヒラリークリントンは、911の前には、タリバン政権による女性に対する弾圧を批判していました。専門職を持った女性が家庭に押し込まれ、運転もできず、音楽もダンスも映画も禁止、身内の男性同伴なしには外出できないなどの弾圧です。やがて、アフガニスタン戦争に突入し、ヒラリーは当初は賛成していたけれども、後に政治的理由で反対に回っています。

人権擁護の立場から言えば、我々がやったこと(アフガン侵攻)は正しかったのです。しかし、そういった原則ではなく政治的都合で立場を変えたりしている。だから、政治家は信頼されなくなるのかもしれません。

とにかく、アラブ諸国のコントロールが取り除かれた今、いったいどうなるのか、私にはまったくわかりません。

筆者: そもそも彼らが民主主義を理解し欲しているのかどうかもわからないわけで・・・。

タイハスト: そのとおりです。民主主義を押し付けるのは間違っているのです。自由や民主主義をもたらすためというのがブッシュ大統領の大義名分でしたが、アメリカも、民主主義を獲得する過程では長い年月がかかっています。

建国の父たちも、いきなり独立を実現したわけではありません。対フランス、対ネイティブインディアンなどの戦争があり、交渉過程があり、独立宣言に至るまで数十年かかっています。いきなり英国のジョージ3世に、ハイ、独立しますと通達したわけではありません。我々の祖先が汗と血を流して獲得したものなのです。

自ら苦労して獲得したのでなければ、価値がないのです。アラブの春で、エジプトの人々が立ち上がり、モスリム同胞団が中心となりモルシ大統領が選ばれましたが、それまで選択肢と言うものがなかったので、どうしたらいいかわからなかったのも当然でしょう。

筆者: アメリカは、独裁者をサポートしながらも、アラブ諸国の人権問題改善のために何かできることはなかったのですか? 

タイハスト: そうですね・・・例えば、サウジアラビアでは女性が運転することが禁じられていて、突然お産が始まって自分で病院に運転していった女性が逮捕される事件が実際にありました。駐留する米軍としては、このような行き過ぎた取締りに批判や懸念を示したりもしたし、基地内では専門職として同等に働いているサウジ女性もいるなど、男女差別の習慣を取り払う努力をしていました。

しかし、いったい一国の独裁政治に、我々がどこまで影響力を及ぼせるでしょうか?その国を治めているのは米軍ではなく、我々にはその国のリーダーを立てる必要があります。しかし一方で、そのリーダーが誰の目にも明らかな弾圧を繰り返しているのを知っていてサポートしなければならないという立場は、非常にタフです。こういう矛盾はすべて政治に起因しているのですよね・・・。

いったい、どうしたらいいのか。理想論かもしれませんが、私たちは政治的な議論を離れて、人間としてのレベルで対話しなければならないのだと思います。そうすれば、どの国も人々も相違より共通点のほうが多いことがわかるはずです。何カ国かでの米軍勤務経験を通して私が行き着いたのは、結局そこなんだと思います。

筆者: ありがとうございました。




posted by Oceanlove at 14:08| 安全保障インタビューシリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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